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「セレンディピティ」という言葉を聞いたことがありますか?ノーベル賞の受賞者や芸術家のインタビューなどでも、たびたび使われています。実はビジネスにおいても、最近注目を集めている能力のひとつなのです。
本記事では、セレンディピティの概要やメリット、セレンディピティを起こりやすくするための方法などをご紹介します。
セレンディピティとは?
セレンディピティ(Serendipity)とは、「思いがけない発見や偶然の幸運」「価値あるものを偶然見つける能力」を意味する言葉です。
イギリスの小説家・政治家であるホレース・ウォルポールが1754年に生み出した造語で、『セレンディップの3人の王子』というペルシャのおとぎ話が語源です。この物語では、王子たちが優れた観察力と知性によって、探していたものとは別の価値ある発見をします。セレンディピティの本質は「準備された心」と「鋭い観察眼」を持つことで偶然を幸運に変える能力です。
ペニシリンの発見やポストイットの開発など、計画外の発見が革新をもたらした例は多くあります。論理的思考も大切ですが、偶然の発見が人生やビジネスの可能性を広げることもあるのです。
「シンクロニシティ」との違い
セレンディピティとよく似た言葉で「シンクロニシティ」があります。シンクロニシティとは、「意味のある偶然の一致」を意味する言葉です。
どちらの言葉も「偶然」という点では同じですが、シンクロニシティはあくまでも起こった現象そのものを指します。それに対してセレンディピティは、幸運な偶然を得る主体的な力のことを指すのです。
セレンディピティを表すことわざ
セレンディピティと同じような「思いがけない幸運」を表す日本のことわざには、「棚からぼたもち」や「瓢箪(ひょうたん)から駒」があります。「棚からぼたもち」は努力せずに幸運が舞い込むことを、「瓢箪から駒」は思いもよらない場所から価値あるものが現れることを意味します。
ビジネスにおいてセレンディピティがもたらすメリット
では、セレンディピティはビジネスにおいてどのようなメリットをもたらすのでしょうか。例えば、インタビューで起業家が「偶然あるものを見てアイデアを思いついた」「たまたま紹介された人からヒントを得た」と語っている内容も、セレンディピティと言えます。
新たなアイデアや解決策が生まれる
自分が意図していない行動や出会いから、新たなアイデアや解決策が生まれます。
全く予想外の出来事から、大きなチャンスにつながることもあるでしょう。
これまでの常識を覆すようなイノベーションをもたらす
セレンディピティによって得られた情報やアイデアの中には、これまでの常識や経験を大きく覆すようなものもあります。
そうした発見から、会社や業界に影響を与えるイノベーションを生みだすことができるでしょう。
セレンディピティの例
実際に、セレンディピティがビジネスにつながった事例をご紹介します。
セレンディピティで最も代表的なビジネスの事例と言われているのが、3Mのポストイットです。3Mの研究員が強力な接着剤の開発をしていましたが、粘着性の弱い製品が出来上がってしまいました。当初この製品は失敗とされていましたが、あるとき研究員が楽譜から落ちるしおりを見てアイデアを思いつきます。「この接着剤の弱さを活かして、本のしおりが作れないか」とひらめき、ポストイットが商品化されたのです。現在では付箋として、世界中に広まっています。
また、世界中の人が日常的に使っているTwitterも、セレンディピティの事例のひとつ。もともとは、社員が遊びとして作ったショートメッセージの交換ツールでした。やがて社内で人気となり、幹部が状況を調べたところ、このツールに中毒性があることが分かります。そして改良を重ねて、サービスとしてリリースされたのが現在のTwitterです。
セレンディピティを起こりやすくする方法
こうしたセレンディピティを手にするためには、どうすればよいのでしょうか。
ここからは、セレンディピティを起こりやすくするポイントについてご紹介します。
様々なことに興味を持ち、行動量を増やす
何事にも好奇心を持って、意識的に行動することが重要です。広い視野を持って物事を見たり、いつもとは違う行動をしたりすることで、セレンディピティに出会う可能性が高くなります。
筆者も時間に余裕があるときは、いつもの道とは違う道を歩くようにしています。そうすると、新しい情報やこれまで気付かなかったことを発見する確率が高まります。まずは自分のまわりに目を向けて、行動することを心掛けてみましょう。
多様な価値観を持つ人と接する機会を増やす
人との出会いから、新しい発見やチャンスにつながることが多いです。多様な価値観を持つ人と接することで、自分にはないヒントを得られるでしょう。意外なことに、苦手な人など「自分とは価値観が違う」と思っている人が何らかのきっかけをもたらしてくれることも。様々な人と関わる機会を、意図的に増やしてみることが大切です。
何事もオープンマインドになる
自分の心をさらけ出し、いろいろなものを受け入れる意識を持つことが重要です。自分の意見が正しいと決めつけるのではなく、違う意見や考えにも耳を傾けましょう。そうしたオープンマインドな姿勢が、セレンディピティを引き寄せる可能性を高めます。
物事をポジティブに受け取る
物事をポジティブに考えることで、視野が広がります。例えば、何かイレギュラーな事態が発生した際に「嫌だな」で終わらせるのではなく、「これが起こった背景はなんだろう?」「どんなメッセージが隠れているんだろう?」と考えることで普段とは違う意見が浮かんでくることも。そうした前向きな姿勢が、チャンスにつながることも大いにあるでしょう。
まとめ
幸運な偶然を引き寄せるためには、自分が何に関心を持っているのかを明確にすることが大切です。
筆者自身、グロービスで働く前は「もっと人の役に立っている実感が得られる仕事に就きたい」と考えていました。あるとき前職の上司から「経営を学ぶならグロービスに通ってみたら?」とアドバイスされて、グロービスのホームページを調べたんです。そこでたまたま発見した採用ページに載っていた言葉に惹かれて、さらに「教育や人材育成であれば、今よりもっと社会や人の役に立てる」と思ったことがきっかけで、グロービスへ入社することに。このように自分なりのテーマを持って過ごすことで、チャンスと巡り合ったときに見逃さずに掴むことができるはずです。
まずは興味関心があるテーマを持って、普段とはちがう行動をしてみることをおすすめします。
著者情報

村尾 佳子(グロービス経営大学院 経営研究科 副研究科長)
関西学院大学社会学部卒業。大阪市立大学大学院創造都市研究科都市政策修士。高知工科大学大学院工学研究科博士(学術)。大手旅行会社にて勤務後、総合人材サービス会社にてプロジェクトマネジメント、企業合併時の業務統合全般を経験。現在はグロービス経営大学院にて、事業戦略、マーケティング戦略立案全般に携わる。教員としては、マーケティング・経営戦略基礎、リーダーシップ開発と倫理・価値観、経営道場などのクラスを担当する。共著に『キャリアをつくる技術と戦略』、27歳からのMBAシリーズ『ビジネス基礎力10』『ビジネス勉強力』『リーダー基礎力10』がある。
※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。