『子育ての幸福学』
〜予防医学と心理学から子育てをアップデートする〜
福田 矢橋 瑞穂 | 株式会社 nt(ニト)CEO、認定こども園すずらん幼児園 経営アドバイザー グロービス経営大学院 東京校 2018期 2014年京都大学総合人間学部卒業、株式会社博報堂入社。プランナーとしてクライアントの課題解決のために、マス/デジタル/リアル広告を統合したマーケティング戦略の立案、実施統括を行う。実家の保育園の経営改革を行うために、2018年グロービス経営大学院入学。2019年9月、働く女性のキャリアと家庭をサポートするためヘルスケア・幼児教育を専門とする株式会社nt(ニト)を創業。 |
家族の幸せを考えるきっかけを作りたい
今回のテーマを設定した背景は2つあります。1つは、「幸せのあり方」を考える機会をつくりたかったからです。私は朝から夜遅くまで働き続け、心身ともに不健康だったことがあります。ある病気にかかったことをきっかけに自分の命の有限性を意識し、「どうすれば限りある人生を幸せに過ごせるか」を考えながら暮らすようになりました。そうすることで、私自身の幸せのためには私個人の幸せだけでなく、大切な人たちの存在、特に最も身近な存在である「家族の幸せ」が欠かせないと気付くことができました。
2つ目は、働くお母さんの自己犠牲で成り立つ世の中を変えたいという想いがあるからです。子どもが自分の人生を預け、最も影響を受ける存在が家族です。子は親の感情をダイレクトに感じ取るため、子どもを幸せに育てようと考えたらまず、自分が幸せであることが大切です。しかし、私は日本で働くお母さんを見ていて「目の前のタスクに忙殺される毎日で、本当に幸せなのだろうか?」と思うことが多々あります。彼女たちは仕事も家庭も一人で頑張らないといけない状況に陥っており、「自分と家族の幸せ」を真剣に考える時間がほとんどないのではないでしょうか。また、実家の保育園では子どもが自分らしく主体的に生きるための心身の土台を築く乳幼児教育について、発達科学や予防医学などの観点から模索しようと考えています。そこで「家族の幸せ」を科学的に考えるきっかけを作ったら面白いのではないか、と考えたことが「子育ての幸福学」という今回のテーマにつながっています。
自己幸福の判断軸×幸福学=子育ての幸福学
今年のパワーモーニングでは子育ての幸福学の導入として、日常を見直すことの重要性を議論しました。幸福学とは「ヒトという生物がどのように幸せに感じるか?」を科学的に研究する学問です。幸せである状態とは、脳の神経物質によって幸せな感情や気分が生まれている状態です。幸せホルモンという言葉をよく耳にされると思いますが、幸せとは感情であり、感情そのものは脳が作り出しています。アンガーマネジメントが仕事や家庭で使われ始めたように、幸せも脳の使い方によって作り出すことができます。幸せであることはある程度コントロールが可能であるということです。一方、感情は個別性が高く、自分が幸せであるという認識は主観的に判断されます。当たり前のことですが、全く同じ状況でも人によって感情が異なるように、一人ひとりの幸せという感情も条件によって大きく変わります。そのため、自分自身の「幸せの判断軸」を定義することが幸せに近づく第一歩になります。「自分にとって本当に大切なものは何か?」という判断軸があれば何を優先すべかが明確になります。自分の感情や行動を客観的に観察し、自分が何で喜ぶのか、悲しむのか、怒るのかを理解することが自分自身を知るためには必要です。自分の感情を紐解いていく中で、自分の幸せのために欠かせないものを見つけることができます。
子どもの発育と幸せの関係性
幸福学では幸福の定義を“Well-Being and Happiness”と現しています。「良好な状態」と「幸せな感情」をキープするには、健全な体と心を保ち続けることが何より重要です。健全な体はわかりやすいのですが、健全な心をイメージするのは少し難しいのではないのでしょうか。現代の科学では「私(主観)=脳の無意識の領域=心」であると考えられています。そして、乳幼児期の子育てが一生の幸せに影響するということが言えます。なぜかなら乳幼児期に、脳や心身の根本的な機能が形作れられるからです。ヒトの発達として、アイデンティティ・自我意識・自己価値が形成されてから、イメージ・記憶が蓄積し、判断基準・価値観が育まれ、それが感情パターン・思考パターンとなり、脳の情報が末梢神経に伝達され、最後に表情・言葉(口癖)・行動パターン(習慣)として身体上に現れるようになります。根源的な子どものアイデンティティ・自我意識・自己価値、つまり心が築き上げられている幼少期に家族が大きな影響を与えていることは言うまでもありません。「今この瞬間が、我が子の一生の幸せを作る」という意識があるかないかで、子どもとの触れ合いや投げかける言葉使いなどが変わってきます。「どうしたらこの子が幸せな人生を送ることができるのか」という長期的な視点で子どもの人生を想い、何気なく行っている普段の行動を意思のあるものにしていくことが、家族の役割です。健全な心と体を育てていくことが、我が子への一生の贈り物になります。
参加メンバーは子育てについて関心の高いママ・パパでしたが、家族構成・出身・子育ての悩みなど様々なバックグラウンドや想いを持って参加してくださっていました。異なる価値観に触れることが新しい発見や自分の価値観の再認識につながるため、メンバー同士で幸福学をベースに「自分だけの幸せの基準」を考えてもらい、子育ての価値観についてディスカッションを行いました。さらに、慶應義塾大学の前野先生が提唱されている幸せの4つの因子(1、自己実現と成長 2、つながりと感謝 3、前向きと楽観 4、独立とマイペース)をヒントに、親として子どものためにどのような行動ができるかを話し合いました。
参加された方は、自分の価値観や子育て観を見つめ直し、他の方の子育て論や幸せの定義について知ることで新しい学びと刺激を感じられたようです。多くの方が家族への想いを深められ、「家族と過ごしている何気ない毎日こそが幸福だと気づくことができた」「家族との日常を守るために頑張れる自分がいる」など、とてもうれしい感想をいただけました。
私は株式会社nt(ニト)のCEOであり、実家の保育園の後継ぎという立場にあります。どちらの立場でも大切にしている価値観は「自由」です。私は幸せな人生には自由に生きられることが欠かせないと考えています。自分で考え、自分の人生を選択することができる、そしてその選択に対する負荷が極端に存在しないこと、それが私の思う自由です。現在、仕事や家庭を大切にするためには、心身ともに無理をして頑張らなければならない状況になっているように感じます。そんな世の中だからこそ、キャリアを大切にする女性に人生の充実を叶えるサポートをしたいと考え、株式会社ntを創立しました。その第一歩として働く女性の根本である心身の健康を支えるため 「無理をしないヘルスケア」 として、自分の健康状態に合わせて栄養をオーダーメイドしたごはんを提供する「パーソナルフードケア」を行っています。分子整合栄養医学に基づき、心身の状態やライフスタイル、ライフステージを総合的に解析し、何千パターンの中から個人に合わせた栄養素の組み合わせを主食・主菜・副菜の揃った献立として調理しています。
保育園においては、自己肯定感を持って主体的に生きるための人生の基礎を育む乳幼児教育・子育てについて模索しています。家族が働いていることが当たり前になり、保育園に求められる役割は保育だけに留まらなくなりました。実家の「すずらん幼児園」という名称には設立当時の1932年から「保育と教育の統一」を唱えていた祖父の想いが込められています。私は今後、特に日本においては自己肯定感が重要なテーマになると考えています。私は自己肯定感が低く、何をするにもあまり自信がありませんでした。それをなんとか経験でカバーしてきましたが、心に根付いている自己肯定感は、表面上ですら改善することは難しいと感じます。子どもたちには、そういう思いをしてほしくありません。自信を持って、自分らしい人生を送ってほしいと強く願っています。幸せな人生の土台となる健全な心と体を育むことができ、特定の子どもや保育士に限られることのない再現性のある保育・幼児教育である「子育ての幸福学」を確立することが目標です。自己肯定感については、別のインタビューも受けていますので、よければご覧ください。これからの時代の働く女性と子どもたちは、新しい生き方を追い求めていく人たちです。「働く女性のヘルスケアと乳幼児教育」この2つをテーマに自分らしい生き方を探求する人たちが、自由に暮らせる社会を実現していきたいです。
福田 矢橋 瑞穂株式会社 nt(ニト)CEO、認定こども園すずらん幼児園 経営アドバイザー
グロービス経営大学院 東京校 2018期
2014年京都大学総合人間学部卒業、株式会社博報堂入社。プランナーとしてクライアントの課題解決のために、マス/デジタル/リアル広告を統合したマーケティング戦略の立案、実施統括を行う。実家の保育園の経営改革を行うために、2018年グロービス経営大学院入学。2019年9月、働く女性のキャリアと家庭をサポートするためヘルスケア・幼児教育を専門とする株式会社nt(ニト)を創業。