デザインと普遍価値

  1. HOME
  2. プログラム
  3. デザインと普遍価値
篠原 由樹 Takram Expert Designer
グロービス経営大学院 東京校 2019期
量産プロダクトのデザインをきっかけに「造り手」と「使い手」、両者間における対話のあり方に興味を持つ。インダストリアルデザインを中核に、企業のビジョン構築、デザインリサーチ、コンセプト構築、サービスデザイン、デザインワークショップなど幅広い領域に携わる。2016年千葉大学大学院デザイン科学専攻修了。NYCにあるプロダクトイノベーションファーム、ECCO Design Inc.にてインターンを経験し、Takramに参画。主なプロジェクトに「HAKUTO Moon Exploration Rover」「Toyota e-Palette Concept」などがある。愛媛県出身。趣味は写真、茶道、陶芸。

身近に使える「デザイン」の視点

私は、デザイン・イノベーション・ファームTakramでデザイナーとして業界や国を越えて様々なプロジェクトに携わってきました。2018年に経済産業省・特許庁より公表された「デザイン経営」宣言にあるように、益々世界の有⼒企業が「デザイン」を戦略の中⼼に据えて始めています。しかしながら、日本においては「デザイン」が経営レベルの意思決定にどのように作用するのかが曖昧で、重要視している企業がそれほど多くないというのが現状です。


そこで、今までの経験と知見を活かし参加者たちの「デザイン」への理解を深めることで、先行き不透明な時代に課題解決を導くリーダーとなるグロービスの仲間たちに、少しでも役に立つのではないかと考えました。また、私が普段デザイナーとして仕事をしている過程を分解して、実際に体験してもらうことで、ビジネスに活かせる「デザイン」の視点は身近にあることを実感できる機会にしたいと思ったのです。

茶道から見出した、時間と人種をまたいで共通する「普遍的価値」

このワークショップの「デザインと普遍的価値」というテーマは、趣味である茶道からアイデアをもらいました。茶道のことを人に話すと興味を持つ方が多く、特に海外の方は日本人以上の反応が返ってきます。数百年の歴史を持つ茶道が、なぜ現代人の心を魅了するのか。そこには、時間と人種をまたいで共通する「普遍的価値」が存在しているからではないでしょうか。観察を繰り返すことで、潜在的にはあるがまだ言語化されていなかったり、形になっていなかったりする「普遍的価値」を抽出し、さまざまなプロダクト・サービスのデザインに落とし込んでいくことは、デザイナーの仕事の醍醐味でもあります。デザインをする上で重要な「観察」はヒト・モノ・情報など幅広い領域を対象とします。今回のパワーモーニングでは、茶道の経験から、参加者の皆さんにもっとも身近な自分自身を観察してもらい「人間のもつ根源欲求は何か」を言語化し、そこから全員に共通する「普遍的価値」を抽出したいと思いました。

未来の社会においても適応可能な欲求のタネ

第1部ではデザインに関する知見を持っていない方に対して、デザイナーの仕事のステップである「観察」、「整理整頓」、「視覚化」と、質の高いアイデア創出のために大切な「問いをデザインする」ことについて紹介しました。


デザインの仕事をすごく大まかに3つに分解すると上記3ステップがあげられます。「観察」では主にヒトとヒトを取り巻く環境を細かく観察します。環境の定義は広く、空間だけではなく利用するモノやサービス、所属する組織構造なども含みます。「整理整頓」では観察で抽出した要素を適切な場所に収納していきます。工業製品でいうと、スイッチをユーザーが押しやすいところに配置する、どこを持てば良いのかすぐにわかる形状をつくるなどを想像していただければわかりやすいと思います。このように情報を整理整頓して見えてくるものがステップの3つ目にあたる「視覚化」となります。情報が見える形になることで、誰でも直感的に情報を間違えずに伝えることができます。


そして「問い(イシュー)をデザインする」とは、元々のイシューとは違う着眼点をもって問いを捉え直してみることで、まったく新しい課題解決へと導くことです。「問い」をどう設定するかによって目の前の出来事に対する見え方は変わるため、問いの質にこだわり、様々な角度から問いを立て観察することが新しいアイデア創出につながるということを実例を交えてお話しました。


第2部では、参加者たち自身の過去と現在の根源欲求を言語化・比較し、現在でも変わらない普遍的価値の観察を行いました。ここで示す根源欲求は、誰かに指示されたわけではなく自らの意思でいつの間にか熱中してしまうような行為を書き出し、どんな欲求を満たしていたのか「Why?」を問いかけていくことで導きだします。過去の欲求については、感性の基礎が築かれると言われている10歳頃の欲求を振り返りながら、ワークシートに書き出してもらいました。

第3部では参加者全員が過去と現在の欲求を発表し、全体を通して普遍的に見られる欲求が何かを明らかにしました。7名の参加者によるワークを通してまとめられたのが、以下の5つの普遍的価値です。


1、知りたい・成長したい・認められたい(未知の追求)


2、無駄を削ぎ落としたい


3、トキメキたい・アドレナリン出したい


4、バランスを取りたい(自分らしさの維持)


5、ヒトを幸福にしたい

参加者からは、「自分自身が気づけていなかった欲求に気づけた」、「参加者たち同士でこんなに共通するワードが出るとは思わなかった」など潜在的にある価値を言語化していく面白さを知ってもらうことができました。テクノロジーが進化しても変わらない現代人の「普遍的価値の抽出」は、未来の社会においても適応可能な欲求のタネであり、事業のアイデアなどをつくる際にも活用できる強力なアプローチ手法だと考えています。今後は今回の発展版として、明らかになった普遍的価値から何がデザインできるのか、どのようにビジネスに応用されるのか、などを具元化するワークショップを行いたいと考えています。

篠原 由樹Takram Expert Designer
グロービス経営大学院 東京校 2019期
量産プロダクトのデザインをきっかけに「造り手」と「使い手」、両者間における対話のあり方に興味を持つ。インダストリアルデザインを中核に、企業のビジョン構築、デザインリサーチ、コンセプト構築、サービスデザイン、デザインワークショップなど幅広い領域に携わる。2016年千葉大学大学院デザイン科学専攻修了。NYCにあるプロダクトイノベーションファーム、ECCO Design Inc.にてインターンを経験し、Takramに参画。主なプロジェクトに「HAKUTO Moon Exploration Rover」「Toyota e-Palette Concept」などがある。愛媛県出身。趣味は写真、茶道、陶芸。