非常識は、 瞬く間に常識に。 テクノベートを 巻き起こす力とは。
株式会社経営共創基盤
取締役マネージングディレクター
塩野 誠
テクノロジーを空気のように捉え、
価値を創造する時代
この20年で爆発的に伸びた市場は、インターネットを中心としたテクノロジーに関わる領域です。テクノロジーによるイノベーションが起こり続ける状況は、今後も変わることはないでしょう。
ビジネスリーダーは、この時代をどのように捉えるべきでしょうか。ポイントになるのは、「誰もが気付かないうちにテクノロジーを利用していること」。そして、「テクノロジーによって、非常識が常識となるスピードが圧倒的に速くなっている」という2点でしょう。
テクノロジーの日常生活への浸透について、身近な事例を確認してみましょう。
これから、ヨーロッパへ行くとして、地図やガイドブックを持参する人は大幅に減っています。例えば、パリ市内にいるとして、スマホで配車アプリUber(ウーバー)を立ち上げ、行き先・車両を指定すれば、市内のどこへもキャッシュレスで移動できます。かつて路線が複雑で旅行者にとって不満が多かったロンドンでのバス移動も、今ではグーグルマップで目的地を設定すると、『何時何分のバスに乗れ』と表示されて、スムーズに到着できますね。美味しいレストランを探すなら、トリップアドバイザーでレーティングや口コミを見ればいい。これらを支えているのは、テクノロジーです。
私たちの生活は今やテクノロジーに触れない日など1日もないのです。朝起きて最初にすることは、ほとんどの人がスマホを見ることでしょう。すでにテクノロジーは生活の隅々まで浸透しており、新しいビジネスを生み出すには、テクノロジーを空気のように大前提として捉え、新たな価値を創造する仕組みをそこに載せていく必要があるのです。
非常識が、瞬く間に常識に
国際電話料金がまだ高かった時代に、無料通話サービスともいえるSkypeの日本進出に私がいたライブドアが関わりました。当時は『タダで誰かと話せるわけがない』とも言われました。そこで、ソフトウェアをCD-ROMにし、ヘッドセットを付けて3,000円のキットにして家電量販店で販売しました。今では無料通話は常識となりました。
婚活サイトもそう。10年前なら、婚活サイトで出会って結婚したというのは珍しかったですが、今ではよく聞く話になりました。少し前までワイヤレスのイヤホンマイクをつけて独り言のように通話している人に戸惑いましたが、今では驚きません。
6,7年前は経営者に「これからは、人工知能(AI)を上手く利用できる企業が勝つ」といった話しをしても、まったく相手にされませんでしたが、今やAIという言葉を目にしない日はありません。
テクノロジーは、加速度的に進化を遂げていますが、そのことによって、はるかに短い期間で非常識だったことが常識となる時代になりました。ここで大切なことは、「当たり前になる少し手前」で、誰かがテクノロジーを利用してイノベーションを起こしているという事実と、そのビジネスの規模が爆発的に増加しているという点です。
イノベーションに必要なのは
「課題設定力」
テクノロジー時代にイノベーションを起こす1つのアプローチは、先程も触れましたが、テクノロジーを空気のように前提として捉え、価値を創造する仕組みを考えることです。その際にカギとなる能力は、「課題設定力」と「実行力」です。
「ビジネスパーソンはどの程度テクノロジーの中身について理解しておくべきか?」とよく聞かれます。投資家の中には、有用な新技術を発掘するために多くの技術論文を読んでいる人もいます。しかし、一般のビジネスパーソンが、技術の理論的背景や実用化が進むかわからない技術を知っておく必要はないと思います。大切なことは、その技術が常識となるまでの間に大枠の内容を理解した上で、「その技術はどのようなインパクトをビジネスに与えるのか?どのような課題の解決に寄与するのか?」を考える力です。
Uberは、世の中のクルマは90%以上の時間は止まっていることに気づき、「世の中のクルマを活用可能な資産にできないか?」と課題設定しました。供給可能なクルマと使いたいという需要を、人間が介在してマッチングするのではビジネスモデルとして成り立ちません。コンピューターのアルゴリズムを活用した最適なマッチングによって、ビジネスとして成立させました。
メルカリは、個人間で様々なモノを売り買いしたいという課題に向かい、質屋でゼロ円査定のブランド品を傷があっても欲しい人が存在することを証明しました。既存のビジネスモデルの常識では売れない商品の所有者と、それを買いたいと願う人をテクノロジーによってマッチングさせたのです。
これからの時代はマシンが、ルーティンワークの大半を処理し、人間はよりクリエイティブな領域のタスクが多くなりますが、この観点からも課題設定力は重要なスキルになります。
ベーシックなスキルは、
テクノロジー時代にも求められる
一方で課題設定力だけでは、競争優位を構築できません。経営戦略やマーケティング、人材マネジメント、ファイナンスといったビジネスの原理原則をつなぎ合わせ、継続的な優位性を構築できるビジネスを作れるかが、今後も勝敗を分けます。
かつてFacebookのようなSNSサービスは多く存在していましたが、Facebookだけが成長し生き残ったのは、ビジネスの原理原則で経営を固めて、広告分野でオペレーションの優位性を確立し、競争力のあるビジネスモデルを作り上げたからでしょう。
そして、これらの能力を保有していることは、キャリアの選択肢を広げることにもつながります。新しい事業が立ち上がる際には、例えばCOOやCFOといった役割の人間が必ず必要になります。そうした際に必要とされる人材であるためにも、ベーシックなビジネススキルは習得しておくべきです。
「好奇心」と「志」は
多様性の中で磨かれる
「課題設定力」「実行力」を下支えするひとつが、「好奇心」です。例えば、「なぜ仮想通貨の価値が上がるのか?」「なぜゲノム診断で痩せられるのか?」など、手に入った情報をそのままにせずに、自分で調べるという行動を取れる人は強い。知らない単語を見つけても、大半の人は検索すらしないでしょう。ちょっと調べるだけで、頭ひとつ抜けることができます。今の時代を踏まえると、好奇心の向き先に、テクノロジーが含まれていると良いでしょう。
もうひとつ、これからリーダーとなる方にお伝えしたいのは、「何のためにビジネスに携わるのか?」という大義を抱いて欲しいということです。例えば、ディープラーニングの知見を同水準で持っている二人がいるとしましょう。一人はソーシャルゲームでのユーザ課金に命を賭けている。もうひとりは創薬に命を賭けている。二人が社会に与えるインパクトの性質は全く異なります。この差は、「自分はどのように社会に貢献したいのか?」という「志」の有無によって生まれます。
最後に、「好奇心」や「志」は、多様性の中で磨かれるということをお伝えしたいと思います。グロービス経営大学院のように、様々な志を有した多様な人たちが集う環境に身を置くことは、皆さんの人生をより価値あるものに飛躍させる機会となるでしょう。
_PROFILEプロフィール
株式会社経営共創基盤(IGPI)
取締役マネージングディレクター
塩野 誠
国内外において企業や政府機関に対し戦略立案・実行のコンサルティング、M&Aアドバイザリー業務を行い、企業投資に関しても10年以上の経験を持つ。近年ではAI/IoT領域において全社戦略や事業開発のプロジェクトを多く手掛ける。ゴールドマン・サックス、起業、べイン&カンパニー、ライブドア等を経て現職。JBIC IG Partners (国際協力銀行・IGPI合弁) 代表取締役CIO(投資責任者)、株式会社ニューズピックス社外取締役等を務める。
肩書はインタビュー当時のものです
OTHER INTERVIEW
OTHER CURRICULUM
TECHNOVATE SUBJECTS
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テクノベート・シンキング
本科目では、大量データ・繰返し処理はコンピュータが、論理設計を人間が行うという役割分担による「テクノベート時代の問題解決」手法を、実際にプログラミングを行うなどしながら身につけ、自身のビジネスにおける問題を解決できるようになることを目指す。
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テクノベート・ストラテジー
本科目では、ICTの劇的な進歩によって生じた経済原理をひもとき、従来の企業戦略の定石とされてきた考え方とは180度異なる「テクノベート」時代の企業戦略の定石を明らかにし、それに基づいた戦略思考を身につけることを狙いとする。
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ソーシャルメディア・コミュニケーション
本科目では、「味方」にすれば心強く、「敵」にすると事業存続すら脅かす恐ろしい存在であるソーシャルメディアを使う顧客の姿を捉え、ビジネスにつなげるコミュニケーションの理論とスキルを学ぶ。ワークショップでは、リアルタイムに変化する顧客の反応を見ながら適切な判断を下す、実践的なトレーニングを行う。
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デザイン思考と体験価値
ケースを通じた議論によって、人間中心的な発想からテクノロジーを活用し、顧客の体験価値を一新するようなイノベーションの事例について理解を深める。また、Day1でグループを組成し、三ヶ月間継続的にプロジェクトワークをしながら、デザイン思考の手法、ビジネスへの生かし方について学ぶ。
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ビジネス・データサイエンス
AI(機械学習)を賢く活用するために必須となるデータサイエンス分野の先端的な知見を、ビジネスリーダーにとって必要な要所に絞り込んで学ぶ。
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テクノロジーとSDGs
デジタル・テクノロジーの最先端と社会課題を結び付け、解決策を紡ぐ力をつけるため設計されており、最先端の情報事例“テクノジービジョン”やダボス会議の資料、SDGsに関する政府発表等をベースに、これらトレンド・概念を組織が取り入れるうえで直面する課題、およびその解決の糸口を受講生の皆様と共にディスカッション形式で探ります。