テクノロジーが導く 新潮流。 経営とデザインが融合する 次世代マネジメント。

Takram
代表・デザインエンジニア
田川 欣哉

ビジネスの構造変化が
デザインを再定義している

ビジネスシーンで「デザイン」という言葉を盛んに聞くようになりました。古くからデザインは、産業革命の要請に応える形で進化を繰り返してきました。例えば、20世紀初頭から、自動車の量産技術の進展に対応する形で、乗りやすさやスタイリングの部分にデザインが持ち込まれるようになりました。プロダクトデザインやグラフィックデザインなどは、マスプロダクションやマスコミュニケーションの発達に対応するために生み出されました。そして、インターネットの登場でビジネスの構造が変化し、それに歩調を合わせるためにデザインは新たなフェーズに入りました。現代のビジネスの成功要因のひとつとしてデザインが挙げられる時代の到来です。
20世紀のビジネスは、「大量に作り、大量に売る」というモデルでした。大量に作ることでコストを圧縮し、世界中に販売チャネルを整備し、マーケティング技術を駆使した絶妙なプライシングを行った上で、マスメディアを用いたプロモーションで購買意欲を醸成し、売上を積み上げてきました。

ところが今は、プロダクトやサービスの評判が、ネットを通じて世界中にシェアされる時代です。良いモノを作れば、コストを掛けずとも、その評価は短時間で世の中に伝播し、一昔前には考えられなかったスピードでユーザーを増やせるようになりました。会社の規模や予算の過多は依然ファクターではあるものの、本当にユーザーから支持されるモノを作ることの重要性が増してきているのです。

では、本当に支持されるモノとは何か。それは、ユーザーが抱える課題を解決するだけではなく、使ってみたいと思わせる魅力を漂わせるプロダクトやサービスです。その実現手法としてデザインは非常に強力です。

今、デザインが注目されている理由がもうひとつあります。使い続けたいと思わせるデザイン、つまりUX(User Experience/顧客体験)です。UXが高ければ高いほどプロダクトやサービスの顧客獲得単価やマーケティングコストは低く抑えられ、LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)が高まることが分かってきたのです。

プロダクトの価値を底上げする
デザインアプローチ

では、品質やUXが高いプロダクトやサービスを作るにはどうすればよいのか。カギを握るのが、「デザインアプローチ」です。デザイナーの価値は、どれだけ徹底してユーザーと向き合えるかで決まります。マーケッターに近いように思えるかもしれませんが、マーケッターが向き合うのが「マーケット」つまり、万や千の単位のユーザーだとすると、デザイナーはそれよりはるかに小さい単位、つまり個人のユーザーにフォーカスを当てます。

プロトタイプを作って一人ひとりのユーザーに触ってもらい、ユーザーが言葉にできない気持ちや感覚を情報として汲み取り、それをカタチにする。そんなアプローチがデザインの仕事の特徴です。抽出した情報を整理しながらインサイトを掴み、課題解決の手法を模索する。このような一人ひとりの人間を中心に据えた「デザインアプローチ」により、プロダクトやサービスのレベルを大幅に上げるのがデザイナーの役割なのです。

世界のリーディングカンパニーが
実践するデザイン×経営

創業者3人のうち2人がデザイナーであるAirbnb(エアビー・アンド・ビー)は、デザインアプローチを重要視した企業の代表例です。ユーザーが日々どのように時間を使い、どのような行動を取っているのかを徹底的にリサーチした上で、丁寧にUXをデザインしています。結果、優れたサービスとして評判が高まり、瞬く間にその名が世界中に広まりました。また、Google、Facebook、Appleといったデジタル世代のリーディングカンパニーでは、SVP(Senior Vice-President)クラスにデザイナーを置いている会社が多数あります。

企業経営におけるデザインの重要性を熟知しているからです。一方、日本の産業は20世紀型のビジネスに留まっている企業も多く、デザインアプローチの活用は「これから」のテーマです。

経営においてプロダクトやサービスの「質」が占める割合が高まるに連れ、「デザイン×経営」という言葉も注目されるようになりました。デザインによるユーザーの課題解決を経営レベルで重要視している企業が増えているからでしょう。例えばスティーブ・ジョブズは、毎週末にiPhoneを持ち帰り自分で使って何度もダメ出しをするなど、ユーザー目線での取り組みに徹底的にこだわっていました。そのようなプロセスを経て、一歩も二歩も踏み込んだ、洗練されたプロダクトが生み出されました。

イノベーション力とブランド力を上げる、デザインの効能

企業競争力の観点から見たデザインの効能は、イノベーション力とブランド力の強化に分けられると思います。この2つを経営レベルで取り組んでいる企業は、そうではない企業に比べて、はるかに競争力が高いと言えます。イノベーションの条件は、「新結合」と「社会への普及」の2つです。技術開発の上流からデザインが介在し、ユーザー視点を導入することで、社会への普及がよりなめらかになります。例えばダイソンでは、デザイン教育された多くのエンジニアが日々プロダクトの改善や新機能の考案に励んでいます。「ユーザーの課題は何か?」を問い続け、プロトタイプを作り、すぐにテストし、うまくいかなければ、その原因をさぐり、またプロトタイプを作る。

そうやって磨かれた機能やデザインをユーザーの元に届けています。技術とデザインを同時に駆動することで、イノベーション力が磨かれた事例です。

ブランド力で言うと、デザインがボトルネックになっている企業が多いように思います。技術もビジネスモデルもいいけれど、デザインに意識が向いていないために印象がパッとしない。ブランド力が低いので、時間経過の中でプロダクトやサービスの価格を下げざるを得なくなる。ブランド力を上げれば、価格を上げながら勝負することが経営の選択肢に入ってきます。例えば、Appleのデバイスから強いUXとデザインを引くと、ありふれたテックガジェットになってしまうかもしれません。テスラのモデルSから、あのルックスやUI/UXを引くと、他のEV(電気自動車)と見分けがつかなく なってしまいます。恐らく、市場での競争力は大幅に下がっていたことでしょう。

「デザイン✕経営」の時代にビジネスパーソンが学ぶべきことはなにか?

デザインの重要性が増している中でビジネスパーソンが押さえるべき内容は、どのようなものでしょうか。この問いに答えるためには、少し解像度を上げる必要があります。20世紀に開発されたプロダクトデザインやグラフィックデザインは「クラシカルデザイン」と呼ばれます。この領域はアート性の高い領域で、属人性が強く、習得が難しい。センスと訓練の両方が必要で、それ自体の習得についてはビジネスパーソンにはお勧めしません。学ぶべきは、このようなデザイナーたちとコミュニケーションし、自らの意図を伝えることができるリテラシーです。それがあれば、デザインの力を活用して、自らの経営におけるブランド力を飛躍的に高めることができるようになります。

一方で、21世紀に発達したデザイン・エンジニアリング、サービス・デザイン、UXデザインなどはサイエンスに近く、フレームワークも存在する再現性の高い領域であり、訓練すればビジネスパーソンにとっても習得可能です。これらのスキルはイノベーション駆動型の企業では大変貴重です。

そして、ビジネスパーソンにとって、より重要なのは、デザインがもたらすビジネスインパクトを理解し、デザインを経営レベルで活かすことです。そのためには、戦略やマーケティング、ファイナンスなどのベーシックな経営スキルは当然必要です。経営スキルとデザインへの理解を兼ね備えたビジネスパーソンの存在は、間違いなく企業の中で重要なポジションを占めることになるでしょう。そうしたビジネスパーソンが増えることで、世界における日本のプレゼンスが高まっていくと思います。

_PROFILE

Takram

代表・デザインエンジニア

田川 欣哉

ハードウェア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広い分野に精通するデザインエンジニア。主なプロジェクトに、トヨタ自動車「NS4」のUI設計、日本政府のビッグデータビジュアライゼーションシステム「RESAS-地域経済分析システム-」のプロトタイピング、NHKEテレ「ミミクリーズ」のアートディレクションなどがある。
日本語入力機器「tagtype」はニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションに選定されている。グッドデザイン金賞、iF Design Award、Red Dot Design Awardなど受賞多数。未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエータ認定。
内閣府クールジャパン戦略アドバイザリボードメンバー。
経済産業省「産業競争力とデザインを考える研究会」「産業構造審議会 知的財産分科会」委員。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授・名誉フェロー。グロービス経営大学院 教員。

肩書はインタビュー当時のものです

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