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営業から「起業家」へ

「就活」の常識を変えろ!
倒産の危機を乗り越えて、就活生
約4人に1人が使うサービスを創出

近年、「就活」の常識が変わりつつある。従来は学生側が企業の情報を集めてエントリーするという方式が一般的だったが、その逆パターン、つまり企業側から学生へアプローチするケースが増えているのだ。そんな新しい就職活動の形をいち早く世の中に提案したのが、新卒採用サイト『OfferBox』を運営する株式会社 i-plug(アイプラグ)。2012年に同社を立ち上げた代表取締役社長・中野智哉さんは、今や大学就職活動生の約4人に1人が利用する『OfferBox』をどのような想いと戦略で育てあげてきたのだろうか。

大学生の48%が、
最初の就職に失敗している

2012年9月にスタートした『OfferBox』。初年度(2014年卒採用向け)は登録学生約4,500名、登録企業88社。6年目となる今年度(2019年卒採用向け)は、登録学生9万4千名、登録企業3,780社にのぼっていたという(2018年6月1日時点)。

最大の特徴は、企業から学生へオファーを送る「逆求人」システム。学生は自分の詳細なプロフィールを自由に記入でき、それを見た企業は決められた送信数の中で学生一人ひとりにアプローチすることができる。企業への広告掲載料はなく、採用が成功したら料金を支払う成功報酬型だ。

中野氏:大学卒業時に就職先が決まっていない人と、入社しても短期間で辞めてしまう人を合わせると、48%もの大学生が最初の就職に失敗しています。採用したい学生と効率的に会えない企業と、自分に合った企業や仕事を見つけられない学生。双方のミスマッチを解消しないことには、日本の雇用問題は解決しません。

実は僕、起業しても人材サービスだけはやらない、と思っていました。大学を卒業してから求人広告業界に約10年携わってきて、新聞折り込みから雑誌、フリーペーパー、Web、モバイルまでひと通りの求人媒体を経験した。中途採用もアルバイト採用もやった。だからこそ、お金を多く払える企業ほど有利な採用活動ができるといったおかしな構造を抜本的に変えるのがどれだけ難しいか、よくわかっていたんです。

でも『OfferBox』のビジネスモデルを思いついたとき、これなら行けるのではないかと思いました。現在サービスは加速度的に成長していますが、僕たちと同じ思いを抱いている学生や企業がこれだけいたという何よりの証だと思っています。

新しいビジネスモデルを考えては、
ダメ出しの嵐

子どもの頃はまったく勉強をしなかったという中野氏。数学だけは偏差値70以上で、あとはオール30台。ニート生活なども経験し、意外にも順風満帆とはいえない人生を送っていた。起業を本格的に考え始めたのは、社会人になって10年近く経った頃だったという。

中野氏:求人広告会社で働き、月1000万円売り上げるトップセールスにまで何とか成長した頃、リーマン・ショックが起きたんです。求人業界は景気悪化の打撃をもろに受けたので、僕は時間を持て余すようになりました。そこでグロービス経営大学院に入学し、MBA取得に向けて勉強を始めました。i-plug創業メンバーの2人ともそこで出会って、様々なビジネスモデルを模索しました。

その中で、「自分たちの子どもが将来使えるようなサービスをつくりたい」という、3人に共通する想いが重なりビジネスモデルが明確になっていったのだという。その想いをベースに事業計画を詰め、MBAを取得した2012年にi-plugを設立した。

中野氏:当初は学生向けのSNSサービスを考えていました。当時のSNSは出会い目的の利用が主流だったので、もっと学生の成長を促せるようなSNSをつくりたいと思っていたんです。ただ、黒字化するには多額の資金が必要で、そのための基盤づくりとしてまずは新卒人材紹介事業を始めることにしました。

ところが、全然うまくいかないのです。前職とは打って変わって、設立間もない無名の会社だったので、100社電話してようやく1社アポが取れるくらいのありさま。これではいくら延命措置をしても倒産は免れられない、と思いました。設立してまだ2ヶ月、営業開始してからはまだ1ヶ月も経っていない。ましてや、本来やりたかったビジネスをスタートできてもいない。家族の顔も浮かんできて、目の前が真っ暗になりました。

創業時のメンバー:左から山田さん、中野さん、田中さん

設立からわずか2ヶ月で、
ビジネスモデルの舵を切る

窮地に立たされた中野さんに、グロービス経営大学院からあるイベントへの誘いが舞い込む。スタートアップ企業が各々のビジネスモデルを発表し合うというプレゼンピッチ大会だった。

中野氏:どの企業のビジネスモデルもキラキラしていて、僕たちもこういう事業を考えなくては、と刺激を受けながら見ていました。そのとき、突然ふっと降りてきたんです。「逆求人の新卒採用サイト」のアイデアが。僕が求人業界で悶々と考えていたことや、起業にあたって模索していたいろんなことが、ひとつに結びついた瞬間だったのかもしれません。

イベントから帰ってきてすぐに事業計画を書き、2人に見てもらいました。2人とも「もう事業を変えるのか!?」と最初は驚いていましたが、きちんと説明すると理解してくれ、その1週間後には新卒人材紹介事業を撤退して新しいサービスを立ち上げることに。学生向けSNSをつくるために準備していた大学生のネットワークもあったので、学生たちにサービスを認知してもらえるイメージも湧いていました。

「これだけ失敗したので、残念ながら自分たちはセンスの良い起業家ではない。自分たちの頭で考えるより、ユーザーの声を聞こう」。そう決めて学生200人と企業100社の生の声をヒアリングしたのは、最大の勝因だったと思います。学生側からは「学歴だけで判断されたくない」「学生時代に何をしてきたかに着目してほしい」、企業側からは「人間性をもっと知りたい」「価値観が形成される中高時代の出来事を知りたい」といった意見があり、『OfferBox』の強みである詳細プロフィール機能はここから生まれました。

僕はもともと、そんな機能は面倒で使ってもらえないだろうと思っていたので、生の声を聞かなければきっとつくらなかった。そういう発見が多々あり、サービスのほぼすべては学生と企業の声を参考にして決めました。僕が決めたのは、企業からのオファーが乱発しないように送信数に制限を設けるという点だけです。

2ヶ月でサイト開発を進め、2012年9月にベータ版をリリース。斬新なビジネスモデルは新聞やWebで多数取り上げられ、学生と企業の登録数もうなぎのぼりに増えた。いよいよ12月1日の就活解禁日(当時)。登録学生約2,000名、登録企業70社という好調な滑り出しかに見えたが…。

中野氏:企業から学生にオファーがまったく送られていないんです。調べてみると、学生のプロフィールページもほぼ真っ白。解禁と同時にたくさんのオファーが飛んで、たくさんのマッチングが生まれると楽しみにしていたのに、思いもよらない事態に呆然としました。

そこからは、どうすれば利用してもらえるかをひたすら考えて実践する毎日。学生側の対策としては、入力項目をわかりやすいデザインに変えるなど細かな改善を続けた結果、数ヶ月後にはプロフィール入力率が10人に1人から10人に4人くらいにまで増えました。

苦戦したのは企業側。リーマン・ショックで人事の人手が減り、どの企業も他の就活サイトからの大量エントリーをさばく作業で手一杯の状況。さらに、当時の超買い手市場のせいで、企業側が受け身の採用に慣れてしまっていたのも大きな要因でした。例えるなら「告白されるのに慣れているイケメン」状態。自分からオファーすることに不慣れなあまり、文面をついコピペしてしまったり、夜遅くに送って「こんな時間まで働かされる会社」と思われたり、すごくもったいない状況に陥っていたんです。

その中でもうまく活用して頂く企業もあり、数人にオファーを送るだけで採用を成功させている企業もありました。サービス自体には自信があったので、あとは使い方さえわかってもらえれば…と思い、1社ずつ地道に啓蒙活動を開始。オファーの送り方をレクチャーしたり、いい事例があったら取材して私達が教えてもらいサービスに反映させたり、そんな活動を3年近くは続けたと思います。

逆求人新卒サイトのパイオニアとして、
若者たちの人生に向き合う

『OfferBox』スタートから2年半後、事業は急拡大する。中野さんいわく「神風」が吹いたという。

中野氏:アベノミクス、そして東京オリンピック確定の影響で、「景気が上向くんじゃないか」「だったら採用しよう」という企業が増えました。さらにそこに、就活解禁が3月に後ろ倒しになるという決定打が。大手就活サイトが動けない期間ができたことで、僕たちにチャンスが巡ってきたんです。

企業から多くの問い合わせがあり、中にはインターン集客のために使いたいという企業も。『OfferBox』は成功報酬型なので、本来ならインターンから採用・入金まではかなり期間が空いてしまいますが、「先払いでいいからやってほしい」という声も多くいただきました。そこで先払いプランをつくったところ、導入企業が一気に拡大。その年の登録数は企業も学生も急激に伸びました。実は先払いプランの導入を最後まで反対していたのは私でして・・・。やっぱり頭で考えることは間違いますね。

それをきっかけにi-plugの売上は年間2〜2.5倍ペースで拡大するようになり、従業員も倍増。『OfferBox』は逆求人新卒サイトの先駆けとして、学生のSNSなどでもよく名前が挙がるメジャーサイトへと成長した。近年は追随するサービスも増えているが、『OfferBox』は認知度・サービス規模ともにトップクラスをキープしている。

中野氏:サービスには、その会社の文化が乗り移るもの。『OfferBox』は僕たちが試行錯誤して生み出し、社員たちが地道な努力でそのアイデンティティーを広めてきました。企業側は「『OfferBox』では心のこもった丁寧なオファーを送らなければ」と思ってくれているし、学生側もそれをわかっているからこそ丁寧なプロフィールを書く。そうじゃないユーザーは自然と離れていくようになっているんです。だから、表面的に類似したサービスがあったとしても、同じようにうまくはいかないでしょう。

僕はよく自分たちのビジネスを「人生の大きな意思決定に関わる事業」と呼んでいます。人生の中でも就活のことはみんな覚えている。それだけ大事な節目だからこそ、いくら売上が小さくても真剣に向き合うべきビジネスだと考えています。

半数近くの大学生が最初の就活に失敗していて、残っている層だって全員仕事を楽しんでいるとは限らない。ごく少数の人しか自分に合う仕事を見つけられない世の中なんて、おかしいですよね。今後は『OfferBox』をよりよくしていく一方で、大学1〜2年から自分のキャリアを考える機会を提供できるようなサービスも考えていきたいと思っています。

目指すべきキャリアを見つけられずにいるなら、まずは目の前にあることや、必要とされていることに全力を注ぐ。やれるだけ徹底的にやったら、それが自ずと「やりたいこと」に変わっていくものです。僕はそんな流れでした。最初に求人広告会社に就職したときは、人材ビジネスがライフワークになるなんて微塵も思っていませんでしたから。目の前の道をコツコツ進む、一見地味な生き方こそが、自分自身や世の中を大きく変えるのではないでしょうか。

株式会社i-plug
代表取締役社長

中野 智哉

1978年12月9日兵庫県生まれ。2001年中京大学経営学部経営学科卒業。2012年グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。株式会社インテリジェンスで10年間求人広告市場で法人営業を経験。また新卒採用面接や新人営業研修など人材採用・教育に関わる業務を経て、2012年4月18日に株式会社i-plugを設立。

肩書はインタビュー当時のものです