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老舗企業を牽引する4代目社長へ

歴史にも地位にもおごらない、
コメ兵4代目社長の大胆で地道な経営術とは

環境省の調査によれば、国内のリユース市場規模は2015年時点で約3兆1,000億円。ホテル・旅館業や医療機器市場に並ぶ規模であることを考えると、その巨大さがわかる。

時計・バッグ・宝飾品などのブランドリユースに強みを持つ株式会社コメ兵は、古着屋として創業した1947年から約70年にわたり、時代のニーズに先駆けてリユース事業を展開してきた。2017年にはフリマアプリ事業に参入し、2020年をめどにAI鑑定の導入も視野に入れている。歴史に甘んじず精力的な経営を行う4代目社長の石原卓児さんに、これまでの道のりと老舗企業を発展させ続ける経営術についてお聞きした。

1947創業当時。ここから今に至るまでのコメ兵の歴史がスタートした

関東進出、リーマン・ショック…
いくつもの困難に直面した社員時代

物心ついたときから、祖父が創業した会社をいずれ継ぐことが決まっていたという石原さん。2代目社長の父からのアドバイスもあり、初めての就職先に選んだのはヨドバシカメラ。父が急逝するまでの約2年間、新宿西口本店で接客や店舗経営を学んだ。

石原氏:当時私は25歳。将来コメ兵を継ぐことは覚悟していましたが、どこかで背を向けていた部分もあって、ヨドバシカメラで働きながら「コメ兵を継ぐ以外の選択肢もあるのかもしれない」とも密かに思っていました。

配属先は本店1階のカメラ売り場。接客がとにかくおもしろくて、お客さまの第一印象が決まる本店1階を守るんだという使命感もあったので、一新入社員が社長にも覚えられるくらい一生懸命働いていましたね。当時はカメラが飛ぶように売れた時代で、「コンパクトカメラを日本一売っているのは私」というくらい、毎日新品を売り続けていました。

一方で、以前買ったカメラがまだ使えるのに、新商品だからという理由で新しいものを購入されるお客さまも多く、その方にとって本当に必要な商品を提案できているのだろうかという疑問もありました。新品・中古品に関わらずニーズに合うものを適正価格で提供するためには、コメ兵のような中古屋がしっかりしていないとダメなんだ。家業の意義を実感し始めたのはちょうどその頃でした。

KOMEHYO新宿店外観

父の急逝で叔父が社長に就任し、石原さんは名古屋に戻ってコメ兵に入社することに。一般社員としてカメラ・時計・衣料の販売・買取りに携わったのち、2003年には自ら名乗りを上げて有楽町店の立ち上げ店長を務めた。当時関東には買取り店舗しかなかったため、有楽町店オープンは本格的な関東進出の第一歩。地元名古屋ですでに地位を確立していたコメ兵をさらに拡大するための、重要なプロジェクトだった。

石原氏:有楽町店は、中古パソコンなどを扱う大手ショップからのオファーで、その店舗の一角に出店するというものでした。先方は女性層の取り込みに課題を持っていたので、コメ兵の女性集客力を見込んでお声がけくださったのです。売上は好調で、ありがたいことに休む暇もないほどでした。

しかし、次に立ち上げ店長を務めた新宿店で壁にぶち当たりました。伊勢丹の目の前の立地に800坪の店舗を構えたのですが、商品の買取りが追いつかず広大な店内を埋めることに苦戦。伊勢丹から流れてきたお客さまがリユース品に不安を感じるケースも多く、リユース品に対する世間のイメージも払拭しなければならない状況でした。

それでも2〜3年かけて徐々に業績を伸ばしていったのですが、そのさなかにリーマン・ショックが発生。会社全体を立て直すために本社に戻り、営業企画部で店舗企画やマーケティングを担当することになりました。全社の業績不振の大きな要因のひとつが新宿店でしたので、自分の手でなんとか改善したいとは思いながらも、当時の私は商売はできても経営のルールはまともに知らなかった。そこでグロービス経営大学院に通い、経営を基礎から学ぶことにしたのです。

高級ホテルのブティックのような店内。ブランディングのために妥協はしない

リーマン・ショックによる業績不振から這い上がるべく、真剣に経営を勉強し始めた石原さん。学びを活かしてさまざまな改革に踏み切った。

石原氏:当時は名古屋と東京で組織構成が異なっていました。東京の店舗ではスタッフ皆がどの分野の商品もマルチに扱うことができ、店長がすべての権限を持っていました。一方、昔からのやり方が定着していた名古屋では、スタッフの担当が分野ごとに分かれており、それぞれの権限を現場ではなく各部長が持っていたのです。

そこで、名古屋の組織改変を行い、お客様により近い現場担当者の責任権限を強め、早急な対応が出来るようにしました。さらに、買い取った商品をメンテナンスして商品化する業務を、店舗ではなく商品センターに集約して行う形に変えました。商品センターには鑑定経験の豊富なベテランを配置することにし、立ち仕事が辛い年齢になっても効率的にスキルを発揮できる環境を整備。その分若手には店舗を任せ、商品化業務にとられていた時間や労力を接客にあてられるようにし、意欲次第で店長にキャリアアップできるチャンスも増やしました。

粗利率が改善されてきてからは、ポイントカードの導入にも着手。実をいうとそれまで弊社には顧客データベースがなく、DMすら送ることができない状況でした。リユース品に対する負のイメージにより、来店後に連絡されることを拒むお客さまがいらっしゃるなどの根深い理由があったのです。

必要なのは「コメ兵は信頼できる」というブランディング。陳列商品の数を7割程度に抑えてディスプレイにこだわったり、スタッフの身だしなみや接客マナーを徹底的に向上させたりと、百貨店に引けを取らない店舗づくりを行いました。そのうえでポイントカード制度を導入してCRM戦略を実践するなど、改革は多岐にわたりましたが、グロービスで学んだ経営知識と従業員との密なコミュニケーションにより業績は着実に改善されていきました。

「従業員は家族」と語る石原氏。社員とのコミュニケーションも積極的に行っている

経営者になり強まった、
従業員そして世の中に対する使命感

リーマン・ショックのさなかに取締役に就任した石原さんは、2011年から1年間名古屋本店の店長を務め、さらに営業本部長として全店舗と商品センターを統括するなど、積極的に現場と関わりながら会社の成長を牽引してきた。2013年の代表取締役社長就任以降は、「安定成長を継続させるための基盤づくり」という使命を自らに課している。

石原氏:数字をドンと上げるだけなら、外からプロ経営者を連れてくればいい。社長である今の私の使命は、成長をいかに止めないようにするか。それができなければ従業員のサラリーもポストも増えず、頑張ってくれている皆に恩返しができません。石原家の家訓にもありますが、「従業員は家族」です。

2016年にはそれまで好調だったインバウンドの収益が落ち込み、地方の不採算店の閉鎖や都市部の大型店舗の出店など、経営戦略の見直しを迫られた時期もありました。インバウンド消費が高まっていた頃は、円安の影響で新品も中古品も価格が高騰していましたが、「海外から来る人たちが買ってくれているから大丈夫」と特に対策を講じなかった。でもインバウンドが落ち込んでようやく、「いつものお客さまに信頼いただける価格設定や店づくりが大事」だと改めて痛感したのです。数字以外のところで何が起きているかを冷静に見極めることも、経営者の重要な役割だと気づかされました。

2017年には、近年急速に拡大しているフリマアプリ市場に参入すべく、ブランド品フリマアプリ『KANTE(カンテ)』をスタート。最低出品価格は1万円以上とし、購入前にコメ兵の真贋鑑定を依頼できる同社ならではのオプションサービスをつけている。

石原氏:「偽ブランド品が届いた」「ネットでブランド品を買うのは不安」といったネット取引の課題を払拭できるのは、創業以来培ってきた弊社の鑑定ノウハウに他なりません。弊社独自の強みを活かしたサービスを提供することで、お客様の不安を解消できると感じた。今では約8割の方がこのオプションサービスを利用してくださっています。

また、売りたい商品をスマホで撮影してLINEに送るだけで大まかな買取り価格がわかる『LINEで査定』サービスも展開しています。「せっかくお店に持っていったのに買い取ってもらえなかった」というストレスをなくし、事前に買取りの流れを説明することで「身分証明書を持参し忘れた」といったトラブルの防止、より高く売るための「付属品」ご持参のご案内もできています。『LINEで査定』をはじめとした取り組みにより、買取りの間口が広がり、2017年の買取り実績は過去最高を記録しました。

将来的にはAI鑑定を導入し、鑑定に付随する業務を削減して皆が接客に専念できる環境をつくりたい。テクノロジーはあくまでも、コメ兵を利用してくださるお客さまを最大限に大事にするための手段として捉えています。

前職で新品カメラを大量に販売した経験から、リユース品の真の価値を理解した石原さん。新品・中古品の垣根を越えて、本当に必要なものを必要なときに手に入れられる世の中こそ、理想であると考える。

石原氏:たとえば贈答品やお祝い品には新品を買いますよね。私だってそうです。でも自分や身内のものであれば、お値打ちのリユース品を買って残ったお金で旅行を楽しむのもいい。家に眠っている不要品を現金に換えて、生活を少し豊かにすることもできます。それが当たり前の世の中をつくるためにも、弊社が先陣を切って業界の信頼度を高めていく必要があります。

弊社は2012年に香港、2017年に中国に現地法人を設立し、ブランドリユース品の仕入れと業者向けの販売を開始しました。今後の目標は北京に店を出すこと。中国国内で自給自足できるまでにしたいと考えています。そうして健全なリユース文化を海外にも根づかせることが、私の将来のビジョンです。

石原氏も常に持ち歩いているという「クレド」。大切にすべき信条や行動指針か記載されている

「加点主義」をテーマに、
従業員の挑戦を積極的に評価

コメ兵は人材育成にも力を入れている。大切にすべき信条や行動指針をまとめたクレド、仕事への姿勢を讃えるメッセージカードを互いに贈り合う風土、シンボリックな活躍をしたメンバーに贈る『ファイブスター』の称号など、コメ兵の一員としてモチベーション高く働けるような工夫が満載だ。

石原氏:今年の人事考課のテーマは「加点主義」。IT戦略や海外事業を進めていくにあたり、チャレンジングに仕事に取り組む従業員を積極的に評価したいと考えています。数字は行動のあとについてくるもの。まずは臆せず挑戦することを期待しています。

私が仕事の中で最も嬉しい瞬間は、社員と一丸となって挑戦し、結果が出せたとき。
私がこの先も挑戦する経営者であり続けるためには、社員の協力は不可欠です。これからも現場の声に耳を傾けながら、様々なことに挑戦していくことが、コメ兵の安定成長にも繋がると信じています。

株式会社コメ兵
代表取締役社長

石原 卓児

大学卒業後ヨドバシカメラに入社し、新宿西口本店1階カメラ売場に勤務。その後、父親の急逝により、家業である株式会社コメ兵に入社。カメラ、時計、アメカジ衣料で売場経験を積み、2003年東京大型初出店である有楽町店長、新宿店店長など、立ち上げ店長を経験。コメ兵のマーケティング部門である営業企画部を立ち上げた後、代表取締役社長に就任。グロービス経営大学院2015年卒業。

肩書はインタビュー当時のものです