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新規事業担当から海外支社長へ

ブラザーDNAの申し子が、体現する “At your side.”
創造と変革を導く冒険家の挑戦。

1908年にミシンの修理業から始まったブラザーグループ。高い技術力を持ち、家庭用ミシンでは国内トップシェアを誇るメーカーであり、創業のミシン事業の他、プリンター、工作機械や工業用部品、通信カラオケシステムなどの製造からコンテンツサービスまで、独自の技術開発で蓄積したコア技術を駆使し、事業の多角化を推進している。戦後の高度経済成長を支えてきた多くの企業が事業の「選択と集中」をして成功を収めてきている中、あえて「多角化経営」を貫いてきた。そこには、創業当時から一世紀を超えて築かれてきた「今ある事業はいつなくなるかわからない。だからこそ、常に新しい市場を開拓し続ける」という変革を恐れない企業風土が根底にある。絶え間ない技術革新と新領域への挑戦というブラザーのDNAは、幾多の困難を乗り越え世界中に拠点を広げた今も、脈々と受け継がれている。

激動する時代の変化とともに、お客様のニーズに応えながらグローバルに事業展開するブラザーグループで、常に新しいフロンティアを求めて挑み続ける冒険家がいる。海外拠点の1つとして、2009年に設立されたブラザーインターナショナルコリア株式会社で代表を務める宮脇健太郎さんだ。長年、国内外の新規事業開発に携わり2017年より代表取締役社長に就任した宮脇さんは、自身のことを「会社の中でもマイノリティな人間だ」という。今回、そんな宮脇さんの今までのキャリアと未来についてお話を伺った。

肌で感じた事業立ち上げの面白さと
ブラザーの神髄

ブラザー工業本社が所在する名古屋市で生まれ育った宮脇さん。ブラザーは地元でも有名な企業であり、また知人が勤めていたのもあって、入社前から「新しいことに果敢に取り組む面白い会社」という印象があったという。大学時代に起業経験もあり、組織を動かす術を「学びたい」と思い就職を決めた宮脇さんを待ち受けていたのは何だったのか。

宮脇氏:入社して最初に言われたのは、「仕事は与えられるもの」のではなく、「仕事は自分で生み出すもの」だった。教育担当だった先輩は、「仕事は自分で営業して獲得してください。そのために必要な人とはいくらでもつなぎますので」というスタンスの方だったので、入社して1ヶ月くらいは、部長や役員の方々と会わせてもらい、自分の想いを話す機会をたくさんいただきました。入社したばかりの若手が、そういった方々と直接話ができるなんて、今思い出しても素晴らしい文化だと思います。

役員陣とのつながりを築きながら、当時革新的だったインターネットオークションのeBayやヤフオクなどをリサーチしては、新しいビジネスを企画。最先端の技術やサービスを追いながら消費者のニーズを探り、数々の企画を試案する中で、初めて手応えを感じたのは、学校に卒業アルバムDVD作成を教育コンテンツとして提供する事業だった。

宮脇氏:入社2年目の頃だったのですが、DVD-Rが市場に出始めたばかりで、価格が120万円ほどで、DVDプレーヤーの世帯普及率は数パーセントとまだ一般家庭が手の届くものではありませんでした。ただ、同時期にDVDプレーヤーよりも低価格の家庭用ゲーム機プレイステーション2が発売されるという発表があった頃でした。ビデオカメラも10万円ほどと安くなっていましたし、今後再生機器も普及していく中で、「自分たちでDVDにアルバムを作って見られる世界が来る」という考えから生まれたのが、卒業アルバムDVD事業でした。

ちょうどこの頃、教育改革により「総合的な学習の時間」が設けられ、先生方は授業内容を自分たちで考えることにとても苦労していました。こうした情勢を見て、一般家庭に高価格のDVDを売るのではなく、学校に教材としてサービスを提供したらwin-winの関係になると思ったのです。小中学生が授業の中で自分たちで卒業アルバムの撮影・編集をしてDVDを作成できればきっと楽しいだろうし、子供たちやそのご家族が喜ぶサービスになると考えました。学校としても、弊社からカメラや編集ソフトを貸し出し、本来カメラマンが担う撮影・編集という一番手間のかかる部分を子供たちに授業としてやってもらうことで、費用を削減でき先生方の負担も軽減するはずだと思ったのです。

全国10校ほどでトライアルを行った所、DVDは親族への配布数も含めて生徒数の3倍売れ、強烈なニーズがあることを実感。思惑は見事に当たり、トライアルは当初上手くいった。

宮脇氏:全国の小学校をまわり、自ら子どもたちに編集方法を教えました。子供たちはとてもユニークな発想をしてくれるので子供たちと一緒の仕事はとても楽しく、同時にニーズを見つけ新たな事業を起ち上げる面白さを感じました。
しかし、DVD-Rや編集ソフトやハードなどの機材の価格低下に伴い、こうしたアルバムは誰でも作れるようになり、サービスの希少価値を失ったことから事業化の停止を強いられました。

すると、学校の先生や保護者の方から「子供たちはとても楽しんでいるので、アルバム作りを続けたい」「どうしたら続けてくれるのか」「社長に直談判に行けばいいのか」という内容の意見が大量に届きました。これを受けた社長から、社会貢献としてでも続ける価値があるのではないかという話があり、良い意味でショックを受けました。お客様のニーズに応え続けるというブラザーの神髄を体感した瞬間でした。しかし、自分に「この事業を一生続けたいのか」と自問したとき、「新しいことに挑戦したい」という気持ちが勝り、不参入を決めました。

入社以来、最大の困難にぶち当たった
ドキュメントスキャナー事業

その後も数々の新規事業を担当。2004年からは米国に渡り、帰国後も新規事業に携わった。その中で、立ち上げの難しさを最も感じたのが、2012年に手掛けたドキュメントスキャナー事業だった。

宮脇氏:ちょうど入社10年目の頃、「既存事業を巻き込んで、会社に貢献することをやってほしい」と会社から求められました。そこで考えたのが、スキャナーをネットワーク接続して利用シーンを多様化するという、既存技術を活用した事業でした。新規事業ではあるものの、全くのゼロからの立ち上げではなく既存事業の技術資産、サービス、チャネル、販社といったアセットを利用することで規模化することができたのですが、一方で苦労も多かった。

変革を進めるには、既存事業に携わっている人たちに動いてもらわなければなりません。私は積極的に新しいことに取り組めるほうだと思いますが、誰もが同じように行動できるわけではありません。一方的に新しい取り組みをお願いすると、反射的に拒否されてしまうことも多い。人には新しいこと、未知のことに対する不安がありますし、そもそも既存事業の業務で手一杯です。大学時代に、ビジネスを立ち上げたときにぶち当たった壁と同じでした。人を動かすにはどうしたらよいかを学ぶために組織に入ったのですが、当時は業務量が半端なく多い状況でそれらをこなすだけで精いっぱいになっていました。既存事業ということもありリソースをあまり割いてもらえず、たったの二人チームで企画をし、開発と協議し、仕様を決めて、世界中に商品を売りに行きました。このままでは仕事が回らなくなると思い、効率的に仕事をすすめるためにグロービスで学ぼうと決意したのです。

その後、グロービスでの学びを活かし、担当業務を細分化して、新規事業に関わる部分を既存事業の延長線上にあるように見せたり、決定権のあるポジションにいる同期を巻き込むなどして、変革の難所を乗り越えることができました。

苦労の甲斐もあって、ドキュメントスキャナー事業は売上50億円を達成、部門を立ち上げるまでに至ったが、その後会社の方針で部門を既存事業に引き渡すことに。自分も既存事業に異動すると思っていた矢先、組織改革の一環で営業とマーケティングを担う新たな部門へ。

宮脇氏:引き渡し先の部門へ行くものだと考えていたのですが、恐らく会社は私の興味関心を考慮して切り離してくれたのだと思います。僕は出来上がった事業よりも、新しいことができる環境を意図的に選びキャリアを構築してきました。この異動についても、個人のキャリアを考慮しながら、組織として新たな可能性を見出そうとするブラザーの企業文化を感じると同時に感謝の気持ちを抱きました。

世界で戦うための組織作りと
異文化理解

新たな部門へ配属されたのちに韓国にあるグループ会社の代表取締役社長に抜擢。赴任した2017年から現在に至るまで、海外拠点会社の代表という新たなポジションを担う中で、宮脇さんが今、注力していることは何か。

宮脇氏:現在、ブラザーインターナショナル(コリア)Co., Ltd.という新しい会社で、組織力をつけるために、マーケティングや営業プロセスを最適化するための業務を担っています。私の過去のキャリアは多彩ですが、根はマーケターだと思っています。マーケターとしての芯を通すのであれば、デジタルマーケティングやマーケティングインテリジェンス、ビジネスインテリジェンスを進めていかなければと漠然と考えていた矢先、販社の社長になったので、これはチャンスだと考えたのです。この2年間ほどで、いろいろなデータを集め、それらに基づいた経営判断ができるように、プラットフォームを構築しました。私はデジタルマーケティングの現場経験はありませんが、2ヶ月程あればその分野のプロフェッショナルと話ができるレベルになれるという自信がありますし、実際にそうやって猛勉強して知識を身につけてきました。データ収集やセミナーなどでの勉強を通して、今では「自社をこうしていきたい」というありたい姿が明確になってきています。

突然の海外赴任だったが、これも新しいことへの挑戦でワクワクしていた。とはいえ、国内とは文化も環境も違う海外。社会情勢の影響や社員とのコミュニケーションなど悩みも多いが、グロービスでの学びを活かし、自分なりの方法で課題と向き合っている。

宮脇氏:一番に考えなければいけないのは、従業員のメンタリティーですね。みな日本の文化が好きで、日本企業で働く覚悟を持っているとはいえ、日系企業で働くリスクはあります。韓国では非常にセンシティブな部分ですし、社長の立場である私が彼ら彼女らと対話をしても、文化的にもノーとも言えず反論もできないでしょうから、キーパーソンを通して、どういう気持ちで働いているのかという情報を得るようにしています。

加えて、国民性や価値観をわかっていないと彼ら彼女らを動かすことはできないと考えており、韓国の文化や宗教、歴史を学んでいます。こうして従業員の考え方やものの見方を理解できるようになり、ずいぶん気持ちが楽になりました。同じ目標に向って働く仲間だからこそ、人はそれぞれ違うことをまず理解することはとても大切だと思っています。

新しいことへ巻き込んでいくには、従業員それぞれがやれる部分とやれない部分を明確にすることで不安を取り除くことがまず大事だと思います。そして、小さな成功体験を積み重ねることで自信を生み出し、自発的に動くように仕立てる。こうしてグロービスでの学びを活かせる今の環境は、とてもありがたいと思っています。

ブラザーの文化を守りながら、
不安定な環境に身を置き続けたい

日々、さまざまな課題に向かいながらも目を背けることなく任務を完遂してきた宮脇さん。仕事を進める上で大切にしていることは何なのか。

宮脇氏:もっとも大切にしていることは、「楽しいかどうか」です。次は自分の目指すキャリアに活かせるかどうかです。また、私は好奇心がかなり強いので、ビジネスでもカルチャーでも、新しいことを知れる機会が多いことがモチベーションにつながっています。

また、ブラザーのビジョンには「“At your side.”あらゆる場面でお客様を第一に考える」という言葉があって、従業員に浸透しています。たとえ自分にとって不都合になるとわかっていても、「それって“At your side.”じゃないよね」という言葉が、誰からともなく自然と出てくる。そうした文化が連綿と受け継がれているのは、とても素晴らしいことだと思いますし、これからも守り続けられるような組織にしたいと思っています。

お客様の視点から物事を見つめ、お客様と真摯に向き合う“At your side.”という文化を守る一方で、今後挑戦したいことについて、宮脇さんはこう語る。

宮脇氏:新しい事業、新しいポジションにはチャレンジしたいと常に思っているのですが、実は「なにをやるか」は、あまりこだわりはありません。ただ、一本通しておきたい筋は、マーケターでありたいという点です。これ以外には、こだわりはあまりなく、だからこそいろいろな環境に飛び込めるのだろうなと思っています。私は常に不安定な環境に身を置き続けたいと思っていて、これからも新しいこと楽しいことに貪欲にチャレンジしていきたいです。

ブラザーインターナショナル(コリア)Co., Ltd.
代表取締役社長

宮脇 健太郎

名古屋大学大学院人間情報学研究科修了後、1999年ブラザー工業株式会社に入社。R&D部門に在籍しながら数多くの新規事業プロジェクトに参画し、2004年から米国販売会社に出向、帰国後は新事業企画担当部門にて事業立ち上げ業務を担当。2012年にはドキュメントスキャナー事業を立ち上げ、BtoB向けのソリューションビジネスを推進。2017年より、ブラザーインターナショナル(コリア)Co., Ltd.の代表取締役社長に就任、現在に至る。グロービス経営大学院名古屋校2015年卒業。

肩書はインタビュー当時のものです