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投稿日:2023年11月30日

投稿日:2023年11月30日

【スタートアップ王国への進路②】デカコーン、世界に61社、ネット通じ海外展開早く

髙橋 史
グロービス経営大学院 テクノベート経営研究所 副主任研究員

企業価値、首位はバイトダンス/業種別は業務効率化が最多

みなさんは「ユニコーン」「デカコーン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。未上場企業の企業価値を示すバリュエーションが10億ドル(約1,480億円)以上のテック企業を、ユニコーン企業と呼びます。

米調査会社CBインサイツによると、7月時点でユニコーン企業は世界で1,200以上あります。そのユニコーンよりもさらに巨大で、バリュエーションが100億ドル(約1.5兆円)を超える未上場企業を、デカコーンと呼んでいます。デカは英語で「10倍」の量を意味するdecaが用いられています。

米フェイスブック(現メタ)や中国のアリババ・グループはデカコーン卒業生です。ユニコーンやデカコーンは今後大型上場を果たす可能性を秘め、投資家に人気のスタートアップ銘柄です。その注目度の高さから、企業の公開情報は決して多くない中でも研究が進んでいます。

さて、世界にデカコーンは何社あるでしょうか。米調査会社ピッチブックによると、2023年9月時点でバリュエーションが100億ドルを超える未上場企業は61社あります。最も評価額が高いのは動画配信サービス「TikTok」を運営する中国のバイトダンス。そのバリュエーションは2,200億ドルに上ります。これはギリシャやカタール1国の名目GDP(国内総生産)の規模に匹敵します。

※ピッチブックを基にグロービス作成。

2位は同じく中国のアントグループで、電子決済のアリペイ(支付宝)を運営しています。3位は著名企業家のイーロン・マスク氏が設立したスペース・エックス、4位に最近日本でも格安衣料品で人気が伸びているシーイン(SHEIN)、5位に決済代行プラットフォームの米・ストライプと続きます。
このほかに金融アプリの英レボリュート(11位)や、Chat(チャット)GPTの米オープンAI(14位)もなじみがあるかもしれません。

デカコーンの事業内容はどのような特徴があるでしょうか。その巨大さゆえ複数の領域にまたがることもあります。そのため明確に区切ることは難しいものの、最も多いのは、ビジネス上での作業効率化や労務管理などの改善を支援するサービスです。多くはクラウド上でサービスを提供するSaaSです。大規模な設備投資や自社でサーバーを管理する必要が無く、アップデートや機能改善・追加を短期間で行い、市場ニーズに応えられる点が強みです。

※ピッチブックを基にグロービス作成。

次に多いのはフィンテックと電子商取引(EC)サイトです。これらの企業は、いずれもインターネットやプラットフォームを介してサービスを提供するため、自国以外の市場へのスピーディーな展開が従来の産業より容易であることが、スタートアップのデカコーン化に起因しているのかもしれません。

日本、デカコーン企業がゼロ/政府が10兆円の総合支援策

デカコーン61社はどこで生まれているのでしょうか。その半数を超える36社が米国に拠点を置いています。米国にはシリコンバレーに代表されるように高度IT人材が世界中から集まっています。そして起業精神に富むスタートアップに対してリスクマネーを供給するベンチャーキャピタルの投資額は2022年だけでも約2,000億ドル(約30兆円)と世界最大の規模です。

※ピッチブックを基にグロービス作成。米国とオランダに共同本社がある企業は両方にカウントした

豊富な資金調達力を背景に、英語で開発された高品質のプロダクトは、国内市場はもとより、グローバル展開も容易であることから、米国にデカコーン企業が集まっているのも不思議はありません。

その次に多いのは中国の13社です。世界最大級の国内市場を持っていることが強みであるほか、国内で普及したSNS(交流サイト)や電子商取引(EC)サイトはすでに中国の外でも大きく広がっています。

4位のインドも、豊富なIT人材を有し、英語の普及度が高く、国内市場も巨大かつ拡大を続けていることから、今後デカコーン企業が増えていく可能性を秘めています。

翻って日本はどうでしょうか。世界第3位の経済規模を有するものの、デカコーン企業は現在1社もありません。その大きな理由の一つは、日本は米中欧に比べて新規株式公開(IPO)の要件が比較的緩やかであることから、比較的早期の段階で上場するため、ユニコーン・デカコーンが生まれづらいと言われています。

また、ベンチャーキャピタル投資もGDP比では米国より格段に少なく、特にレイターステージでの投資が少ないことも早期・小型上場が多い理由の一つと指摘されています。

しかし、日本国内では上場・株式公開後に急成長を遂げる日本発のスタートアップ企業も数多くいます。例えば、2013年に設立され、2018年に東証マザーズ(現グロース)に上場したメルカリの時価総額は、現在5000億円を超えています。同じくすでに上場済みですが、2012年に創業し、個人・法人向け資金管理サービスをSaaSで提供しているマネーフォワードの時価総額も2,000億円を上回っています。
これらの企業はまだデカコーン(約1.5兆円)の規模には到達していませんが、急速に成長を遂げるスタートアップと彼らへの投資機会が日本でも増えていることの表れと言えます。

このようにイノベーションにより新たな産業創造をもたらし、変革の担い手となりうる若いスタートアップの力は、少子高齢化が進み、経済の停滞が続く日本に活力を与えることが期待できます。

日本政府もスタートアップによる社会課題解決を念頭に5か年計画を策定し、日本からまずは100社のユニコーンを生み出すべく総合的支援策を策定しました。スタートアップ分野への投資額としては異例の10兆円が投下されていく予定です。今後日本発のデカコーン級企業創出の可能性として、例えば日本が独自の強みを持つ自動車産業とフィンテックを掛け合わせた製品・サービスの世界市場展開がありうるかもしれません。

※本記事は、日経ヴェリタスにて連載された「スタートアップ王国への進路②」を転載したものです(2023年10月1日掲載)

髙橋 史

グロービス経営大学院 テクノベート経営研究所 副主任研究員

日本貿易振興機構(ジェトロ)を経て2022年にグロービスに入社。グロービス経営大学院の創造系およびモノ(戦略)系科目開発・リサーチを行う。前職では南アフリカおよびミャンマーに駐在し、日本企業の海外進出支援を目的とした調査・情報発信を担った。東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程(経営学)在籍

※プロフィールは投稿日時点のものです