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投稿日:2023年10月16日

投稿日:2023年10月16日

【東大発ベンチャーCEO×VC投資家】大学発ベンチャーの成長戦略と課題

今野 穣
グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー
大嶋 泰介
Nature Architects株式会社 代表取締役 / CEO
野呂 侑希
燈株式会社 代表取締役CEO
各務 茂夫
東京大学 大学院工学系研究科 教授/産学協創推進本部 副本部長

グロービス経営大学院 東京校にて、一般社団法人G1が主催するG1ベンチャー2023が開催された。
第5部分科会「大学発スタートアップ創出戦略〜ユニコーン創出に必要な生態系とは〜」に登壇したのは、今野穣氏、大嶋泰介氏、野呂侑希氏、各務茂夫氏。

大学から生まれるスタートアップ企業やベンチャー企業が、これからの日本で大きく成長していくための要諦や直面する課題は何か。そして大学発ベンチャーを増やし、育てていくにはどうすればよいのか。大学発ベンチャーCEOと投資家の視点で、これからの日本経済に欠かせないスタートアップの生態系について紐解いていく。

※G1ベンチャーとは?

起業家を中心に、ベンチャー経営に関わる学者・政治家・官僚・メディアなどの第一線で活躍するリーダーたちが集い、議論する場。イノベーションを生みだし、強いベンチャー企業を育む生態系の構築を目指すことをコンセプトとしている。

大学発ベンチャーとは

まずはじめに、大学発ベンチャーについて整理をしていく。経済産業省の定義では、以下のように語られている。

我が国の経済が持続的な発展を続けていくためには、イノベーションの連続的な創出が必要です。大学発ベンチャーは、大学に潜在する研究成果を掘り起こし、新規性の高い製品により、新市場の創出を目指す「イノベーションの担い手」として高く期待されるものです。

引用:経済産業省 大学発ベンチャー「大学発ベンチャーについて」

大学などの革新的な研究成果や技術から生まれるスタートアップ企業やベンチャー企業が、今後の日本経済におけるイノベーションの源泉になると考えられている。

具体的な5つの分類

経済産業省によると、大学発ベンチャーは以下5つのいずれかに当てはまる企業を指す。

研究成果ベンチャー
大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー

共同研究ベンチャー
創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と共同研究等を行ったベンチャー(設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)

技術移転ベンチャー
既存事業を維持・発展させるため、設立5年以内に大学から技術移転等を受けたベンチャー(設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)

学生ベンチャー
大学と深い関連のある学生ベンチャー(現役の学生が関係する、または関係したもののみが対象)

関連ベンチャー
大学からの出資がある等その他、大学と深い関連のあるベンチャー

引用:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース「大学発ベンチャーとは」

大学発ベンチャーの事例

燈株式会社

2021年燈株式会社を創業し、CEOに就任した野呂氏。「当社は東京大学からスタートした初期のAIスタートアップのひとつです。現在3期目で創業から2年3ヶ月が経過し、東大出身のエンジニアを中心とした90名ほどの組織規模になっています。私たちは建設DX、とくにAIを用いたDXを推進しています。具体的には、建設業のプロセスにおいて、施工管理や設計などの一部ではなく、全体にわたる効率化を目指しています。入札から企画、設計、施工管理、維持管理という一連の流れに対してソリューションを提供し、その中でAIを活用してDXを実現していきます」と手掛けているビジネスについて語った。

加えて、ユニコーンという概念について問われた野呂氏は、「ユニコーンという概念自体にどれだけこだわるべきかについては、未上場時における値付けの話になるため、それ自体には特別にこだわらなくてもよいと考えています。それよりもスピード感を持って成長していくことや、成長を支えるためのリスクマネーを含むエコシステムが必要なのではないかと感じています」と返答した。

Nature Architects株式会社

自身が大学院時代に研究していた内容が、現在の事業基盤になっているという大嶋氏。「東京大学の博士課程で学んでいた頃、メタマテリアルや機械設計、構造設計に関する研究を行っていました。メタマテリアルというのは、材料と構造の設計を通じて物理的な現象をコントロールし、自然界には存在しない新しい材料をつくる研究領域です。ただそれだけではビジネスにならないので、私たちはこれらの技術を製造業、とくに機械設計やエンジニアリングデザイン領域に応用し、その設計業務を行っています。この設計技術とメタマテリアル、AIを活用することで、製品の性能を爆発的に向上させつつ製造コストを下げることができるのです」と研究内容と事業への展開について説明した。

「単に部品を設計するだけでなく、商社と連携し、我々の設計で大量の部品を流通させることを目指しています。この目標を達成すれば、我々の会社もユニコーンと同等の規模になると考えています。この目標を達成できるかどうかが、私たちの会社の成否を分けると思います。このようにユニコーンというのは、我々のビジネスにおける重要な指標となっていますね」

大学発ベンチャーを支える投資家の存在

グロービス・キャピタル・パートナーズの今野氏は「私たちは約30年間で1,800億円の投資を管理してきました。日本における独立系ベンチャーキャピタルとしては、最大級の規模だと思います。2015年には200億円、2019年には400億円、最近では700億円と、順調に規模を拡大してきました。このように規模を拡大し続けている理由は、ユニコーン企業を生みだすためです」と投資家の視点でベンチャーキャピタルの動きについて言及した。

さらに今野氏は「小さなファンドの運用においては、いち早く上場することが好ましいかもしれません。しかし、上場後の企業が社会の中でどのような存在になり得ているかという点では、我々は市場にリスクを押し付けているだけで、意義のあるサステナブルな企業を生みだせているのか疑問に思います。そうした想いに立ち返り、ファンドの規模を大きくして、ユニコーン企業を創出することに力を注ごうと考え、方向転換しました」と語った。

※グロービス・キャピタル・パートナーズとは?

累計ファンド運用額1,800億円、累計投資先数200社超の投資実績を有する、日本初の本格的ハンズオン型ベンチャーキャピタル。これまでに、ビジョナル株式会社、株式会社メドレー、株式会社メルカリなど、多数の有力上場企業を輩出している。

大学発ベンチャーが直面する課題

顧客を理解し、技術視点と経営視点をつなぐ役割が必要

大学発ベンチャーが拡大する上での課題について、今野氏は「なぜディープテックに投資するのかというと、お金はかかるものの成功すれば大きなリターンが得られるという前提があるからです。大きなリターンが得られなさそうな技術は、当然優れた技術であっても(投資を進めるのは)なかなか難しい。この点を解決するためには、次のステップにつながるエコシステムのプレーヤーが必要だと考えています」と投資家の視点でコメントした。

「具体的には、カスタマーと技術者をつなぐ役割が重要です。多くの研究者はロジカルに開発した技術について語ることができますが、一方で顧客はどういう人で、その人たちのどんなペインを(技術が)解決するのかということにはあまり言及されません。これは研究者側が問題を抱えているのではなく、そこをつなぐメンターのような人を増やすべきだと感じています。 また、今後は経営人材もさらに育成していく必要があるのではないでしょうか」(今野氏)

成長のカギは、組織マネジメントや海外展開

ユニコーン企業になるための課題として、野呂氏は「これからさらに大きくなって、1,000億円を超えて、3,000億円、5,000億円、最終的には1兆円。このような規模になるまでの解像度がまだ低い部分があって、それは自分の中でも大きな挑戦だと思っています。とくに組織マネジメントや海外展開は、成長過程のキーワードだと考えています」と今後の目標と課題について語った。

「例えば(海外展開でいうと)、私たちは建設業といった領域が中心なので、今は北米よりもアジア市場が今後マーケットとして重要になると見ています。日本のゼネコン企業もアジアへ進出していますが、主に日系企業からの仕事が多いため、今後(より規模を拡大していくためには)現地法人との取引も増やしていくことが必要ですね。このグローバルな視点が、私自身の次なるチャレンジでもあります」(野呂氏)

日本で大学発ベンチャーを増やすには

まずは分母(=起業する数)を増やす

日本からユニコーン企業を生みだすためのポイントとして、「ロールモデルをつくることはもちろん大事ですが、継続的にエコシステムを構築し、その中で(起業する)数を増やさないといけないと思っています。突き抜けるためにはUSのトップティアやグローバルなVCへ進出することが重要な一方で、足元の企業数を増やすことも必要です。分母が増えれば一定程度、分子(ユニコーン級に拡大する大学発ベンチャー)も出てくるのではないでしょうか。ローカルな視点、つまりスタートアップのシードやアーリーフェーズを支えるVCの役割が大きいと捉えています」と今野氏は語った。

今野 穣

グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー

2006年グロービス・キャピタル・パートナーズ入社、2012年同社パートナー就任、2013年最高執行責任者就任、2019年同社代表パートナーに就任。主なトラックレコードは、Visional(旧ビズリーチ)、Yappli、クリーマ、アカツキ、ブイキューブ、ライフネット生命保険、Quipper、キラメックス。主な投資担当先は、スマートニュース、アンドパッド、READYFOR、akippa、アグリメディア、FLYWHEEL、リノベる。、tebiki、セイビー、ナレッジワーク、TEARASSなど。同社以前は、経営コンサルティング会社(現PwC)にて、プロジェクトマネジャーを歴任。東京大学法学部卒。

大嶋 泰介

Nature Architects株式会社 代表取締役 / CEO

Nature Architects 代表取締役CEO 東京大学総合文化研究科博士課程単位取得退学。独立行政法人日本学術振興会特別研究員(DC1)、 2017年5月にNature Architectsを創業。メカニカル・メタマテリアルの設計技術の研究に従事する。 独立行政法人情報処理推進機構より未踏スーパークリエータ、総務省より異能ベーションプログラム認定、 文部科学省よりナイスステップな研究者2022認定。

野呂 侑希

燈株式会社 代表取締役CEO

東京大学工学部在学中 高校1年次にYahoo! Open Hack Uで審査員特別賞受賞. 東京大学入学後,東大松尾研究室主催のGCIで優秀賞受賞. 松尾研究所にて, 上場企業様とのAIプロジェクトにエンジニアとして参画,企業様への共同研究の提案, コンサルティングに従事. 2021年燈株式会社を創業,CEOに就任. 『Forbes JAPAN 30 Under 30 2022』受賞。

各務 茂夫

東京大学 大学院工学系研究科 教授/産学協創推進本部 副本部長

1982年一橋大学商学部卒業、スイスIMD 経営学修士(MBA)、米国ケースウェスタンリザーブ大学経営大学院経営学博士取得。ボストンコンサルティンググループを経て、 コーポレイトディレクション(CDI)の設立に参画(創業パートナー)、取締役主幹、米国CDI上級副社長兼事務所長を歴任。学位取得後、Heidrick & Struggles社にパートナーに就任、日本企業のコーポレートガバナンス改革に取り組む。2002年9月東京大学大学院薬学系研究科教員となり、2004年東京大学産学連携本部(現産学協雄推進本部)教授・事業化推進部長に就任(~2013年3月)。 株式会社東京大学エッジキャピタル監査役を兼務(~2013年6月)。2013年4月より教授・イノベーション推進部長。2020年4月より現職。 東京大学では大学発ベンチャー育成・支援、アントレプレナーシップ教育に取り組む。特定非営利活動法人アイセック・ジャパン会長(代表理事)。日本ベンチャー学会会長(2020年1月~)。日本ベンチャー学会第1回松田修一賞受賞(2015年)。株式会社モルフォ取締役(社外)

※プロフィールは投稿日時点のものです