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投稿日:2023年09月15日

投稿日:2023年09月15日

【時価総額5000億円以上の企業事例から学ぶ】メガベンチャー創出の成功要因

小柴 満信
JSR株式会社 元 名誉会長
松村 亮
楽天グループ株式会社 グループ常務執行役員 コマースカンパニー シニアヴァイスプレジデント
辻 庸介
株式会社マネーフォワード 代表取締役社長CEO

グロービス経営大学院 東京校にて、一般社団法人G1が主催するG1ベンチャー2023が開催された。
第3部分科会「メガベンチャーをつくるための要諦」に登壇したのは、小柴満信氏、松村亮氏、辻庸介氏。
日本でメガベンチャーを立ち上げ、育てていくためには何が必要なのか。戦略、組織、カルチャーなど、さまざまな角度から成功要因を紐解いていく。

※G1ベンチャーとは?

起業家を中心に、ベンチャー経営に関わる学者・政治家・官僚・メディアなどの第一線で活躍するリーダーたちが集い、議論する場。イノベーションを生みだし、強いベンチャー企業を育む生態系の構築を目指すことをコンセプトとしている。

メガベンチャーとは

はじめに、メガベンチャーとそのほかの企業との違いについて整理していく。メガベンチャーとは、「一定期間内に急成長し、規模が大きくなったベンチャー企業」を指す。従業員数や時価総額、創業からの期間など数値上の明確な定義はないが、世間一般にメガベンチャーと呼ばれる企業は、従業員数500人以上で時価総額500億円以上であることが多い。

ベンチャー企業との違い

上記の通り、メガベンチャーとベンチャーの違いは、数値として明確にあるわけではない。そのほかの両社を区分する基準として、上場・非上場が挙げられる場合もある。しかし、企業価値10億ドル(約1,150億円)以上の非上場企業もあるように、必ずしも「上場企業=メガベンチャー」となるわけではない。


大企業や中小企業との違い

中小企業は、業種ごとに従業員数や資本金の基準が中小企業基本法で定められており、その範囲を超える企業が大企業とみなされる。つまり「多額の資本金を有し、多数の従業員を雇用する企業」が大企業と言えるため、急成長を遂げ規模が大きくなったメガベンチャーとの間には、定義上の明確な違いはない。
では、一般的な大企業とメガベンチャーとの違いはどのようなものがあるだろうか。例えば、組織風土・カルチャーの観点で比較すると、創業から短期間で事業を拡大し急成長したメガベンチャーでは、経営者や従業員が新たなチャレンジを続けている、大企業よりも意思決定のスピードが早い、といった特徴が見られる。企業によって多少のグラデーションがあるものの、大企業とベンチャー両方の性質を併せ持つことが多い。

0からメガベンチャーを立ち上げるには

ベンチャーやスタートアップを題材にしたドラマや漫画によって、認知自体は広がっているものの、日本でメガベンチャーにまで成長した事例はまだまだ多くはない。メガベンチャーの域にまで企業が大きく成長するには、どんな経営が必要なのだろうか。まずは、メガベンチャーを立ち上げた経験を持つ小柴氏とともに、立ち上げ時のポイントについて理解を深めていく。

景気が悪いときこそチャンス

半導体材料事業を手掛ける企業(JSR株式会社のグループ会社)を、12年間で急成長させた小柴氏。セッション冒頭では「日米半導体摩擦の真っ只中にアメリカへ渡り、会社を立ち上げました。売上は0から100ミリオン(約100億円)に、さらにはR&Dや製造機能を持つ会社へと成長させた経験を持っています」と自身の経験について振り返った。

立ち上げ時に意識していたこととして「製品を売るというより、会社を売ることにフォーカスしました。また、グローバルな会社ではありましたが、日本のアイデンティティを忘れずにいましたね。日本製という安心感、実直さ、そしてディープテック※の技術力を突き詰めていきました。あとはとにかく現場に行くようにしていました」と言及した。

また、小柴氏は「ディープテックが成功するひとつのポイントは、世の中(の景気)が悪いときに新しい取り組みを始めることですね。ディープテックはコンサバティブな世界なので、景気が良いときにはなかなか(市場に)入れない。悪いときほどチャンスだと思ってやっていました」と当時の成功要因について語った。

※ディープテック…大学や研究機関で長期間かつ多額の費用をかけて研究開発された技術(眠っているような技術)を基に、世の中の生活スタイルを大きく変えたり、社会の大きな課題を解決したりする技術のことを指す。引用:「『ディープテック』――今、注目される3つの理由」より)

メガベンチャーを成長させる2つの方法

ベンチャーを立ち上げた後、成長させるには何が必要なのか。楽天市場の事業責任者である松村氏は「(楽天グループ全体の従業員数は)現在2万人を超えていますが、入社した10年前は数千人ほどでした。それ以上に違うのは事業の構成で、当時はまだEコマースが中心だったと思います。そこから色々な事業を拡大して、グループ全体でエコシステムを構築していきました」と楽天グループの成長について語る。

成長のカギは「エコシステム」

ベンチャー企業の成長・拡大について、大きく2つの方法があると松村氏は語る。「メガベンチャーは何を持ってメガベンチャーとするか難しいですが、仮に(企業の)サイズだと考えると、インターネットの世界だと2つほど拡大の仕方があると思います。ひとつは、事業ドメインを拡大すること。もうひとつは、フットプリントを広げていくことです

※フットプリント…もともとは「足跡」を意味する言葉で、グローバルビジネスにおいては「足跡=拠点」という意味合いで使用される。

まず、事業ドメインの拡大について「数百億くらいであれば、インターネットで優れたサービスを作成することで、達成できる可能性は十分あると思います。しかし数千億という規模になると、ひとつのサービスで売上を作っていくのは困難です。サービス単体ではなく、(複数のサービスによるエコシステム)全体で勝負する必要があります。楽天は、去年の売上が約2兆円でした。この兆という単位を達成するためには、エコシステムの構築が不可欠です」と言及した。

さらに事業ポートフォリオとエコシステムについて、「楽天グループは多くの事業を持っており、外部からは(事業)ポートフォリオ(を軸に事業運営)しているように見えるかもしれませんが、私たちとしてはポートフォリオというよりもエコシステムを構築しているという認識です。ポートフォリオとエコシステムは、基本的な考え方や背景にある“関数”が違うと考えています。ポートフォリオの場合、多くの事業への投資とその回収が求められますし、効率を上げることや付加価値を提供することが重要です。一方で、エコシステムやインターネットの世界ではネットワーク外部性が基盤になっているので、その効果をいかに強化するかが意思決定の基準になっていますね」と付け加えた。

メガベンチャーが持続的成長を続けるには

ここまで事業戦略について理解を深めてきたが、組織運営における課題やポイントはどのようなものがあるのだろうか。

経営層の新陳代謝を促進する

さまざまなベンチャー企業の支援にも携わってきた小柴氏は、「IPO前後は、組織を変えていかなければならない時期だと思います。私はこれまで日本だけでなく、海外のスタートアップのボードメンバーも経験してきました。日本のボードメンバーは、初期に(創業メンバーの)紹介によって構成され、そのまま引き継がれることが多いです。そうすると、企業がIPO前のグロースステージになったときに、ガバナンスボードが力を持ちすぎてしまう。こうした問題を避けるためにも、ボードの新陳代謝は非常に重要だと思います」と語った。

グローバル市場拡大は「ハイブリッド」

また、グローバル市場での拡大について、松村氏は「インターネットでプロダクトを構築する場合、ハイブリッドが重要なのかなと感じています。(本国とグローバルで)プロダクトのレイヤーがかなり違うと思うので、同じひとつのもの(プロダクト)を構成しているとしても、グローバルチームで作っていく必要があると思うんですよね。なので楽天でも、AIのような基盤技術に関しては、グローバルチームが主に取り組んでいます。これに対し、フロント側になってくると、ローカライズ中心となります」と語った。

小柴 満信

JSR株式会社 元 名誉会長

千葉大学工学部卒業、同大学院修了。米国ウィスコンシン州立大学大学院材料科学科在籍の後、1981年に日本合成ゴム株式会社(現JSR株式会社)に入社。研究所にて半導体材料の開発に従事。1990年に米国シリコンバレーにあるグループ会社JSR Micro Inc. に赴任、半導体材料事業の米国市場での地位確立に尽力。帰国後、2004年に取締役に就任、2006年常務取締役、2008年専務取締役として半導体材料事業拡大を推進、2009年代表取締役社長に就任の後、2019年より代表取締役会長、2020年取締役会長、2021年6月に名誉会長に就任。2023年6月30日付で名誉会長を退任。

松村 亮

楽天グループ株式会社 グループ常務執行役員 コマースカンパニー シニアヴァイスプレジデント

エンジニア、外資系戦略コンサルティングファーム(東京、ロンドン)を経て、楽天へ入社。楽天では、社長室、楽天USA副社長等を経て、現職。慶應大学卒、ロンドン大学修士(ファイナンス)

辻 庸介

株式会社マネーフォワード 代表取締役社長CEO

1976年大阪府生まれ。2001年に京都大学農学部を卒業後、ソニー株式会社に入社。2004年にマネックス証券株式会社に参画。2011年ペンシルバニア大学ウォートン校MBA修了。2012年に株式会社マネーフォワードを設立し、2017年に東京証券取引所マザーズ市場へ上場、2021年に第一部へ市場変更(2022年4月に市場区分の見直しに伴い、プライム市場へ移行)。2018年2月 「第4回日本ベンチャー大賞」にて審査委員会特別賞受賞。新経済連盟 幹事、シリコンバレー・ジャパン・プラットフォーム エグゼクティブ・コミッティー、経済同友会 第1期ノミネートメンバー。

※プロフィールは投稿日時点のものです