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投稿日:2023年09月15日

投稿日:2023年09月15日

【サッカー日本代表監督・森保一氏に学ぶ】成果を生みだすチームマネジメント

森保 一
公益財団法人日本サッカー協会 サッカー指導者

グロービス経営大学院 東京校にて、一般社団法人G1が主催するG1ベンチャー2023が開催された。
第2部全体会「世界で勝つための戦略と組織〜ジャイアントキリングの裏側で何が起きていたのか〜」に登壇したのは、森保一氏。

メンバーの能力を最大限に引き出し、目標達成に向けて自律的に動く組織を作るためには何が必要なのか。2022年サッカーワールドカップ日本代表チームを率いて、ジャイアントキリングを起こした森保氏とともに、成果につながるチームマネジメントや戦略について考えていく。

※G1ベンチャーとは?

起業家を中心に、ベンチャー経営に関わる学者・政治家・官僚・メディアなどの第一線で活躍するリーダーたちが集い、議論する場。イノベーションを生みだし、強いベンチャー企業を育む生態系の構築を目指すことをコンセプトとしている。

チームマネジメントとは?

チームマネジメントとは、チームの目標達成に向けた戦略を考えたり、メンバーが能力を最大限に発揮できる環境を作ったりすることを意味する。

リーダーシップを発揮して、戦略を共有し、メンバーのモチベーションを上げ、チームの団結力を高めていくことが重要になる。ゆくゆくは、リーダーの細かな指示がなくても、メンバーが自ら考えて動ける状態を作ることが理想である。

チームマネジメントの目的

チームマネジメントにおける最大の目的は、成果を生みだすことである。そのためには、メンバーの能力やスキルを伸ばし、目標達成に向けてモチベーションを上げる働きかけが必要である。また、一般的なビジネスシーンでは、複数のチームが集まってより大きな組織を構成している。したがって各チームのパフォーマンスを向上させることで、組織の業績アップや生産性アップなどの効果が期待できる。

さらに、ビジネスを取り巻く環境は複雑性や不確実性が増しており、よりスピーディーな意思決定が求められるようになった。個々のメンバーが主体的に考えて動くことで、チーム全体で変化への適応力を高めることができる。

成果を出すチーム作りのポイント

チームマネジメントが必要となるのは、なにもビジネスだけではない。サッカーをはじめとするスポーツにおいても、チームマネジメントがゲームの勝敗を大きく左右する。今回はサッカーワールドカップ日本代表監督・森保氏から、成果を生みだすチーム作りの重要なポイントを学んでいく。

目標達成に向けた課題を把握する

ワールドカップの抽選でドイツやスペインなどの強豪国と同じグループになった感想を聞かれた森保氏は「(同じ組になれたことは)ラッキーだと思いました。2050年までに日本サッカー協会は、ワールドカップで優勝するという目標を掲げているんですね。その中で、(日本の)現在地はどこなのか、優勝に向けて何をやるべきなのかというヒントが、ドイツ戦やスペイン戦から得られると思いました」と語った。

さらに森保氏は「(ドイツやスペインは)ワールドカップでの優勝経験がある国です。ドイツがどのように戦略を組み立て、スペインがどのようにチーム作りを行っているのか。ワールドカップという真剣勝負の場だからこそ、そうした経験から得られるものがたくさんあると思いました」と続けた。

メンバーのエンパワーメントを高める

選手のパフォーマンスを最大化するために、マネジメント側として意識している点について「監督として私がやるのは、どういうコンセプトや考えで試合をするのか、原理原則となる戦術をもとに自チームは何をすべきなのか、対戦相手との相性や力関係を踏まえた上で何ができるのかを伝えることです」と述べた森保氏。

さらに「試合中にはいろんなことが起こるので、試合状況に合わせたプランを伝えています。選手たちが自信を持ってプレーし、適切な判断を行なえるように準備をすることが大切だと思っています」と続けた。チームにおける試合中の判断基準や共通認識を揃えることが、選手たちのエンパワーメントを高めることにつながっている。

戦略を共有し、役割を明確にする

サッカーチームは監督と選手だけでなく、コーチやさまざまなスタッフの支えがあって成り立っている。そうした多くのスタッフとの関係構築やチーム運営について「まずは、チーム全体の戦略やコンセプトを彼らに共有します。そこでコーチ陣に、攻撃担当や守備担当、ゴールキーパー担当、フィジカル担当、そしてセットプレー担当などの役割を与え、責任を担ってもらうようにしています」と森保氏は言及した。

そして「練習についても、最初は私が決めながらやっていましたが、少しずつ(主導をコーチ陣に)移行しています。もちろん練習内容についてディスカッションすることもありますが、練習スケジュールを組んだ後は、それぞれがトレーニング内容を考えてくれています」と続けた。

また「コーチ陣だけでなく、メディカル、広報、総務などのチームスタッフもそれぞれの分野で責任を持ってもらい、それぞれの立場からチームの勝利に貢献できる提案をしてほしいと伝えています」とチームが自走するためのコミュニケーションについて触れた。

優秀なプレイヤーが優秀なマネジャーになるには

最後に人を成長させるための鼓舞の仕方について、「できていることとできていないこと、そして本人の基準の中でできることなのかを見るようにしています。またチームとしてやらなければならない役割を果たせているのか、はっきりと伝えるべきだと考えています」と述べ、成果と課題のフィードバックの重要性を強調した。

また、「優れた選手から優れた監督になった過程は、延長線上だったのか?」という質問に対して、森保氏は「私自身がよい選手、よい監督であるかについては皆さんの評価にお任せしますが、サッカーをやっていく上で選手と指導者が延長線上だと思っていなかったことはラッキーだったと思います。選手とは違う大変さがあると理解し、自然とメンタルが切り替えられたのは、これまでの先輩方から学ばせてもらったおかげですね。やはり選手時代の待遇やプライドは染みついているものです。だからこそ、今の自分に必要なプライドだけ持って、(それ以外の)プライドを捨てるということを意識しています」と回答しセッションを締め括った。

森保 一

公益財団法人日本サッカー協会 サッカー指導者

選手時代はマツダSC(現、サンフレッチェ広島)、広島、京都パープルサンガ(現、京都サンガF.C.)、ベガルタ仙台でプレー。1992年に日本代表に選出され、FIFAワールドカップアメリカ’94アジア地区最終予選など35試合に出場した。2004年に選手生活を引退し、指導者に転向。広島の強化部育成コーチを皮切りに、日本サッカー協会ナショナルコーチングスタッフ、広島コーチ、アルビレックス新潟ヘッドコーチを歴任。12年から指揮を執った広島では、J1で3度の優勝を経験。17年10月に東京オリンピックを目指すU-20日本代表監督に就任し、21年に行われた本大会ではチームをベスト4に導いた。18年4月にSAMURAI BLUE(日本代表)のコーチとなり、7月には同監督に就任し、FIFAワールドカップカタール2022ではベスト16に進出。大会後に新契約を締結した。ワールドカップを挟んで2期連続で日本代表を指揮する初の監督となる。

※プロフィールは投稿日時点のものです