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投稿日:2023年08月10日

投稿日:2023年08月10日

【ソニー再生・平井一夫氏に聞く】組織のモチベーションを高めるリーダーシップ

平井 一夫
ソニーグループ株式会社 シニアアドバイザー/一般社団法人プロジェクト希望 代表理事

グロービス経営大学院 東京校にて、一般社団法人G1が主催するG1ベンチャー2023が開催された。
第1部全体会「世界で勝てるテクノベート経営」のセッションスピーカーとして登壇したのは、赤字に陥り危機に瀕していた時期にソニーグループ社長に就任し、見事に業績を復活させた平井一夫氏。

グローバル化の進展やテクノロジーの影響など、目まぐるしく環境が変化する現代。激化するビジネス環境の中で、世界で勝ち続ける組織をつくるためにリーダーはどのようなことが求められているのだろうか。自ら変化を起こし、組織を常に前進させるためのリーダーシップとモチベーションマネジメントとはどのようなものか。平井氏とともにセッションを通して紐解いていく。

※G1ベンチャーとは?

起業家を中心に、ベンチャー経営に関わる学者・政治家・官僚・メディアなどの第一線で活躍するリーダーたちが集い、議論する場。イノベーションを生みだし、強いベンチャー企業を育む生態系の構築を目指すことをコンセプトとしている。

モチベーションとは?

日常や業務の中でよく耳にする「モチベーション」という言葉。「動機付け」を意味し、何かしらの目標に向けて動くための原動力となるものである。モチベーションは2種類あり、「外発的動機付け」「内発的動機付け」に分けられる。

ビジネスや組織におけるモチベーションは、どちらか一方ではなく両方をバランスよく満たしていくことが重要である。「外発的動機付け」と「内発的動機付け」に切り分けて考えることで、自身や組織におけるモチベーションの課題がどこにあるのか特定しやすくなる。

  • 外発的動機付け
    報酬や懲罰など強制的に外部からの働きかけによる動機付けのこと。具体的には「ノルマを達成したら報酬が上がる」「ミスによってペナルティが与えられる」など、報酬に対する欲や罰に対する刺激などで高めるモチベーションを指す。しかし一般的に、その効果は一時的であるとされ、モチベーションの持続期間は短い。

  • 内発的動機付け
    物事に対する強い興味や探求心など、人の内面的な要因によって生まれる動機付けのこと。例えば、仕事に対する興味や関心、やりがい、達成感などが挙げられる。内発的動機付けは強ければ強いほどアクションにつながりやすく、高い集中力が発揮されるため、モチベーションは長期的に持続する。

環境変化の激しい時代に求められるモチベーション

ビジネスにおけるモチベーションの重要性は近年ますます高まっている。その背景には「グローバル化とテクノロジーの進化による競争の激化」と「イノベーション創出の必要性」が挙げられる。

グローバル化が進み、テクノロジーが急速に発展している現代では、ビジネスを取り巻く環境も劇的な変化を続けている。「これまで想定していなかった競合が参入し、従来のビジネスモデルが崩れ去るという事例がたくさんあります。例えば、百年以上の歴史がある自動車業界では、デジタル化の波が押し寄せ、新たな参入企業としてテスラが急速に台頭しました。今ではテスラの時価総額はトヨタ自動車を上回っており、新規参入としては驚きの展開です」と変化のスピードについて語る平井氏。

さらに「このような環境の中で、組織のリーダーや社員は変化への対応が求められますが、それだけでは不十分です。変化に対応するだけでなく、自ら変化を起こし、競争相手にどう対応していくかが重要なのです。前向きな姿勢を持ってビジネスを進めなければ、世界で勝つ経営はできないと思っています」と述べた。

そのために必要となるのが、社員一人一人のモチベーションアップである。「社員が常にモチベーションを高め、前に進んでいける環境をリーダーが創り上げることが重要です。モチベーションが低い組織では、新しいアイデアやイノベーションは基本的に起こりません。つまり、世界で勝てるような商品やサービスは生まれないのです」と言及した。

モチベーションを高めるリーダーシップ

では、メンバーのモチベーションを高めるためには、具体的にどのような行動を取ればよいのだろうか。モチベーションを高めるリーダーシップについて考えていく。

EQ重視のコミュニケーションを取る

EQ(心の知能指数)を重視したコミュニケーションを意識し、メンバーの感情を理解することで、組織として前向きに働ける風土や雰囲気が醸成されていく。
「あなたが上司に求めていることは何ですか?というアンケート結果を見ると、自分の意見や考えに耳を傾けてくれる、公平かつ公正に評価してくれる、感情の浮き沈みがなく明確な判断をしてくれるなど、よくある項目が挙げられています。さらに、リーダーとしての実績や仕事の能力は、上司に求める項目としてはあまり重要視されていないようです」(平井氏)

つまり、リーダーがどれだけ実績を上げても、実務的に優秀だとしても、それらはメンバーのモチベーションには直接的には関係がない。
それよりも、メンバーの感情を理解し、前向きに仕事に取り組める環境を整えることのほうが重要である。「メンバーにアドバイスを行い、サポートするのは、非常に重要なリーダーの役割です。とくに経験の浅いメンバーが成長するためには、適切なアドバイスが必要となります。本来もっと成長できるはずだった優秀なメンバーを放置したことで、そのメンバーや組織の成長が停滞してしまうことは避けなければなりません」と平井氏は付け加える。

成功はメンバーの手柄に、失敗は自分の責任にする

また、メンバーのアイデアや考えを尊重し、成功体験を積ませることも非常に重要である。メンバーに「やれる」「できる」と自信を持ってもらうことで、「新しいことに挑戦してみたい」「もっと成長したい」といったモチベーションにつながるという。
「自分よりも優れたアイデアや素晴らしい考えを認め、それを採用するには勇気と自信が必要ですよね。たとえメンバーのアイデアを採用して上手くいかなかったとしても、その意思決定をしたリーダーである自分の責任であることをメンバーに説明しなければなりません。逆に上手くいった場合は、メンバーに対して素晴らしいアイデアを出してもらったおかげであることをしっかりとフィードバックします。こうしたコミュニケーションによって、メンバーが新しいアイデアをどんどん発信できるようになります」と平井氏は語る。

モチベーションが低下するリーダーシップ

平井氏曰く「リーダーの一挙手一投足は常に見られている」とのこと。「リーダーが何を言ったか、何を言わなかったか、何を示唆したか、何をやらせなかったか。それらはすべてメンバーに見られています」とさらに言及。

肩書きや勤続年数を権力と捉える

1つ目は、役職や勤続年数の長さで物事を判断したり、人を動かそうとしたりする考え方である。「部長だから言うことを聞け、この会社で35年もの経験を持っているから指示に従え…といった考え方ではメンバーはついてきません。肩書きや年功序列を権力と考えるリーダーシップは組織全体のモチベーション低下につながるため注意が必要です」(平井氏)

急激な環境変化により、これまでの日本企業では当たり前だった「終身雇用」や「年功序列」などの前提が崩れている。トップダウンで決められたことをこなすチームでは、当然成果にもつながらない。これからのリーダーには、肩書きや勤続年数ではなく、メンバーの個性や強みを理解した上でゴールへ導くコミュニケーションが期待されるだろう。

誤った判断や失敗を認めない

2つ目は、リーダーとして誤った判断をしたり、何か失敗をしたりしたときに、認めようとしない姿勢である。「上司として格好がつかない」というプライドは、メンバーの信頼喪失だけでなく、組織全体のモチベーション低下にもつながりかねない。

「誤った判断をしたリーダーは、このままではよくないと自分でも分かっているが、プライドが許さずそのまま進めてしまいます。しかし、失敗した後の対応や処理を行うメンバーとしては、早く軌道修正をしてほしいと思っているのです。いつまでもリーダーが自分の非を認めず、ずっと同じ状況が続くと現場は疲弊し、モチベーションも下がってしまいます」と平井氏は語る。

素直に自分の過ちを認めて頭を下げたり、リーダーが率先して軌道修正を進めたりするなど、リーダーの行動次第ではメンバーからの信頼を得るチャンスにもなるという。「ネガティブな状況に陥ったときこそ、実はリーダーシップを発揮する絶好の機会なんですよ。逆にアドバンテージとして活用することで、組織の士気を高めることができます」(平井氏)

戦略やサービスが本来の力を発揮するために

最後に、リーダーシップとモチベーションについて平井氏はこう語る。「最初に述べた通り、強いリーダーシップがなければ、組織やメンバーのモチベーションは上がりません。組織という土台が強くなければ、戦略やサービスなどほかの要素がどれほど優れていても、それらが本来持つ潜在能力を発揮することはできません」

「まずは皆さんがリーダーとしてメンバーのモチベーションを上げ、維持し、彼ら彼女らに最大限の力を発揮してもらうにはどうすればよいか。その方法を考えることが重要です。それをスタートポイントとして、経営戦略、サービス、商品、アライアンスなどを進めていくことが、世界で勝つためには非常に重要なことだと思います」とセッションを締め括った。

平井 一夫

ソニーグループ株式会社 シニアアドバイザー/一般社団法人プロジェクト希望 代表理事

1984年に株式会社CBS・ソニー(現 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社。1995年よりゲーム事業の北米責任者を務め、2007年に株式会社ソニー・コンピュータエンタテイメント (現 株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント) 社長 兼 グループCEO就任。2012年4月にソニー株式会社 社長 兼 CEOに就任し、ソニーグループ全体のビジネスを牽引。2018年4月より2019年6月まで会長を務める。2019年6月よりソニーグループ株式会社 シニアアドバイザーに就任。 2021年4月、自ら代表理事を務める一般社団法人プロジェクト希望を設立。 子どもたちの未来創造のきっかけとなる感動体験をつくるプロジェクトを推進している。 一般社団法人プロジェクト希望:Project KIBO(https://www.projectkibo.org/)

※プロフィールは投稿日時点のものです