GLOBIS Articles

  • 研究プロジェクト
  • 知見録PICK UP

投稿日:2023年04月26日

投稿日:2023年04月26日

【インタビュー事例紹介】コミュニティの何が“幸せ”に作用するのか?コミュニティの力とは Vol.4

研究プロジェクトメンバー

植松 絵里
大内 鉄平
古仲 研一
僧野 大介
多田 歩美

教員

田久保 善彦
グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長

Vol.3では、幸せを得られるコミュニティの分類、および各分類のコミュニティ参加により得られる幸せの因子を見てきました。

最終回の今回は、Vol.3で紹介したコミュニティ分類に参加した4名へのインタビューを通して、コミュニティのどのような要素が幸せに作用するのかについて紹介します。

事例①周囲に感謝するようになったー競合調査目的でコミュニティに参加して

分類A(交流親睦・役割明確型)コミュニティ事例:山口正徳さん 40代 通信会社勤務

2列目、右から3人目が山口さん

山口さんは、元々AWSの対抗製品エンジニアでしたが、ライバル製品を調査する目的でJAWS―UGのコミュニティに参加。それが、自身にとってとてもよい機会になったといいます。

●コミュニティの特徴

コミュニティメンバーがビジネスライクではなく、みなが楽しそうで生き生きしていて、熱気を感じました。技術的にも新しいものが多く、みんなが真剣に学んでいる姿が刺激的でした。

最初はAWSのことを知らないという引け目や負い目のようなものを感じていましたが、仕事でもAWSに触れるようになり、知識が付いてきました。知り合いや繋がりも増えてきたことで、参加することに自信が持てるようになりました。ただの参加者のままでは終わりたくなくて、「山口正徳」という自分を認知してもらいたいと考えるようになりました。

●コミュニティに参加して得られたこと

自分から情報発信・アウトプットすることを意識するようになった

もともとイベントなどで登壇者になることに憧れをもっていましたが、自信がありませんでした。仕事を通じAWSの知識を積み重ね、コミュニティのイベントに参加する中で思い切って、2017 JAWG-UG 東京のイベントで登壇者に応募しました。これが大きな一歩を踏み出した成功体験のようなものになりました。

自分が話した内容に対して感想をもらえることが次へのモチベーションとなり、次にまたどこかで話をしたいな、誰かの役に立てたらいいなと思えるようになりました。

自分の強みが明確になり、目標に対しても自分の想いが強ければ実現の可能性が高まるという確信を得た

もともとリードすることに自分の強みがあるとは感じていましたが、実際にコミュニティでイベントの実行委員長などを担う中で、成功体験を経て自分の強みに確信を持てました

また、コミュニティ活動をする上で最初はぼんやりとだが、AWS Samurai(AWSコミュニティで活躍した人に与えられる称号)にいつか自分もなりたいという想いは持っていました。

周囲に感謝を感じる頻度が増えてきた

コミュニティを通じて関わる人が増えたことや、大きいイベントに向けて、みんなボランティアでいろいろと動いていたため、実行委員長という立場も重なり、協力してくれる人にはすごく感謝するようになりました。

ですが、コミュニティ参加にプライベートの時間を割くことで、家族にも負担がかかってしまうこともありました。自分にとって一番大切なのは、家族という想いもあり、家族の支えがあってこそこういう活動ができるということで、家族にも常に感謝するようになりました。

事例②いろんな価値観に触れ楽観的にー初めて知った走る楽しさ

分類B(交流親睦・役割自由型)コミュニティ参加事例:則長美穂さん 40代 メーカー勤務

前列、一番右が則長さん

2016年の上京を機に誘われて参加したランニングクラブで初めて走る面白さに目覚めた則長さんは、以来ずっと参加しているといいます。

●コミュニティの特徴

200人程が所属しているコミュニティですが、とても緩やかなネットワークでつながっていて、参加の義務や何かをしなくてはいけない役割のようなものはありません。また、走りたい人や懇親会などのイベントを開催したい人が、この指とまれと参加者を募ると一定以上の参加者が集まります。そういった緩さや気楽さが長く所属している理由の一つでもあります。

●コミュニティに参加して得られたこと

自分や相手のありのままを受け入れ、頼りたいという思いになった

ランニングクラブ参加前までは、同質的な集まりの中で、自分と他者を比較することもありました。また、仲間との関係性としてベタベタするのはあまり好きではありませんでした。

コミュニティ参加後、大会前日に同じ旅館に泊まった際に、一見キラキラしているように見える人であっても実際には悩んでいるところもあるという別の側面を知ることができました。様々な価値観を持つ人に触れることで、自分以外の価値観を受容できるようになりました。また、元々は距離感が近すぎる人間関係は苦手でしたが、ランニングという共通点がある繋がりだけでもありがとうと思えるようになり、頼りたいとも思えるようにもなりました。

楽観的な思考になった

コミュニティ参加前は、将来自分はどうなるのだろうか?という漠然とした想いがありました。 ランニングクラブ参加後、大ケガをして約1ヶ月入院生活をしたのですが、その際に必ず誰かがお見舞いに来てくれていました。この経験から、たとえケガをしたとしても何とかなるのだな、という楽観的な思考になることができました。

事例③他のコミュニティにも参加したいと思うようにーカンファレンス委員会

分類C(目的達成・役割明確型)コミュニティ参加事例:岩松琢磨さん 30代 メーカー勤務

中央から左回りで4人目が岩松さん

グロービス経営大学院に通いながらも、一歩深くかかわるきっかけがなくもやもやしていた岩松さんは、仲間から背中を押され、同大学院が開催する大規模カンファレンスの運営委員コミュニティに参加することにしました。

●コミュニティの特徴

コミュニティ内ではそれぞれ役割がありましたが、役割とは別に、誰しもが声を上げて突発的なイベント企画を立ち上げ、皆で参加して楽しんでいる雰囲気でした。

この雰囲気が創られた理由としては、コミュニティの参加者がそれぞれコミュニティ作りやネットワーキングの重要性を認識していたことが考えられます。そのうえで、多くの参加者が、参加者間の心理的安全性を創り出すことが、様々な活動をやりやすくなるということを理解していたからだと思います。

●コミュニティに参加して得られたこと

他者を通じた学びや内省の機会が増え、一歩踏み込んで取り組む契機になった

大規模カンファレンスの委員コミュニティでは、一人一人の様々な活躍を見てきました。切れ味鋭い発言をする人、発言量は少なくともまじめにコツコツ進める人などその方法は様々で、コミュニティへの貢献は人それぞれの方法で良いことを体感しました。大きなイベントを実現する中で色々な人に頼る経験を得て、人に頼ってよいという意識を持つことが出来ました。

また、何か課題が発生すると、多くの委員が率先して手を挙げて解決しようとする姿勢を見たことは、困難に対して投げ出さず、自分から積極的に一歩踏み込んで挑戦する契機になりました。

感謝を感じる機会が圧倒的に増え、つながりを創っていきたいと想いをもった

様々な方と協働する機会が増えたことで、感謝の気持ちを持つ機会は圧倒的に増えました。また、よりネットワークを広げていきたいという前向きな気持ちが大きくなり、その後の別コミュニティへの参加やコミュニティの立ち上げにもつながりました。

事例④自分にはない考えとの出会いー子育てコミュニティ

分類D(目的達成・役割自由型)コミュニティ参加事例:宮田真知さん 30代 ITサービス会社勤務

写真は、イメージです

学生時代からコミュニティの価値を感じていたという宮田さんは、社会人になり、母になり出会った子育てコミュニティに、会の趣旨に共感し、軽い気持ちで参加したといいます。

●コミュニティに参加して得られたこと

できて当たり前だと思っていたことが希少価値

コミュニティメンバーは保育士さんで、事務作業が得意でない方が多かったため、私がPCを利用したデータ入力作業等を担当しました。私にしてみれば、できて当然だと思っていたことがコミュニティには希少価値でした。コミュニティ活動の中で、自分が役に立つ部分について知ることができ、また無理せず貢献できている感覚を得られました。

自分にはない考え方を持つ人に出会え、つながりが持てたことに感謝

コミュニティ活動を通して、様々な子育て経験を持つ人々と出会い、体験談や自分と異なる考え方に触れることで自分の視野が広がりました。コミュニティの中で、何か悩んだらこの人に相談しようという人と出会え、悩んだとしても相談できるマインドも持てるようになりました。

おわりに:人生を”幸せ”にするコミュニティの力

本研究を進める中で、多数の方のお話をうかがいました。それぞれ参加しているコミュニティの活動内容や参加目的は異なりますが、ほとんどの方々がコミュニティ参加により「一歩を踏み出す機会」や「相手に感謝を感じる経験」、「自己肯定感の高まり」についてコメントされていました。

一歩踏み出してコミュニティに参加してみることが何よりも重要です。自身の興味や関心、課題など目的にあったコミュニティに参加してみるのが良いでしょう。合わないと思ったら抜けても良いのです。

コミュニティの活動によって、自分の興味関心、強み弱み、使命感といった気付きを得ることができます。さらに、他者から刺激を受けてチャレンジ精神が磨かれます。そうした気付きとチャレンジ精神が目的達成のための行動につながっていきます。コミュニティに参加することで自分自身の行動を強化します。その過程では他者への感謝の気持ちも生まれるでしょう。

最後に、私たちの研究を通して見えてきたコミュニティの力について、以下3点で総括します。

  1. コミュニティに参加することで人はより幸せになることができます。特に、前野隆司氏が提唱する幸せの4因子のうち、「やってみよう因子」(自己肯定感が強く、主体的に仕事に取り組む)「ありがとう因子」の2つが高められます。
  2.  コミュニティに入ったら、さらに一歩踏み出して、積極的にコミュニケーションをとってみることや、少しでも自分で役に立てることがあれば申し出て役割を担ってみましょう。ちょっとの勇気が、きっとあなた自身の幸せの因子が高まり、あなたの人生が充実したものになるはずです。 
  3. 参加するコミュニティの種類により、高められる幸せの要素は異なります。やみくもに手あたり次第コミュニティに参加するのではなく、コミュニティの分類毎に高められる因子は異なるという、分類毎のコミュニティの力を事前に理解した上で、目的を持って参加することをおすすめします。

この記事が、皆さんの人生の中で新たなコミュニティに参加して幸せを得るきっかけとなれば幸いです。

研究プロジェクトメンバー

植松 絵里

大内 鉄平

古仲 研一

僧野 大介

多田 歩美

教員

田久保 善彦

グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長