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投稿日:2022年06月14日

投稿日:2022年06月14日

ファッションサブスクの進化(後編)-アナザーアドレスにDROBE、百貨店発サービスに見る特別感

松村 真美子
グロービス・コーポレート・エデュケーション ディレクター

⼤丸松坂屋百貨店が2021年3月にスタートしたファッションサブスクリプション「アナザーアドレス」が好調です。2020年にスタートしたパーソナルスタイリングサービス「DROBE」も2年間で会員数10万人(2022年4月時点)を突破しています。こちらは三越伊勢丹ホールディングスの新規事業プロジェクトから生まれた事業です。一方、過去には似たようなコンセプトでありながら、短期間で消えていったサービスも存在します。前編では、2019年頃までのファッションサブスクの勝敗の鍵は「日常性」にあることを述べました。後編では、2020年以降、新たなステージへ押し上げたものは何なのか、また、何が変わったのかを分析します。(全2回後編)前編はこちら。

2020年以降のファッションサブスクに現れた「高級感」と「パーソナライズ」

2019年までのファッションサブスクの勝敗のカギは、利用者の日常にどのくらい密接に寄り添うことができるかにあったと前編で述べました。

では、2020年以降はどうでしょうか?

新しくスタートしたアナザーアドレスは月額1万1880円で、海外のラグジュアリーブランドの服を毎月3着レンタルできます。価格はエアクロと大差はなく、服を自分でもたなくてよい、というメリットは共通しています。最も違うのは商品の「高級感」です

アナザーアドレスは1点数万円(ものによっては10万円近く)もするハイブランドの服や、デザイン性の高い服、日々着る服というよりは会食やプレゼンなどの「ハレの場」向けの服を多く扱っています。従来の成功要因であった「日常性」からは遠いようにも思えますが、サービスは好調です。なぜでしょうか?一つ考えられるのは、成功のカギが「日常性」から「高級感」や「イベント感」に変化した可能性です。

もう一つ好調なDROBEも見てみましょう。

DROBEは月額3190円で、服に加えバッグやシューズなどトータルコーディネートされた5つのアイテムが着こなしのポイントを記したカルテとともに送付されます。初回は現在はキャンペーン中で無料ですが、2回目以降はそのままチャージされます。ユーザの嗜好や体型、予算に応じてプロのスタイリストとスタイリングAI(人工知能)が協同でコーディネートするのが大きな特徴です。

DROBEは一見すると、(事業撤退した)ZOZOと似たモデルです。スタイリングフィーがチャージされる分、経済的メリットはむしろ少ないとも言えそうです。だがその提供内容には大きな違いを見ることができます。具体的には、カスタマイズ(パーソナライズ)の精度と、スタイリストと顧客の関係性です。

ZOZOが基本的な体形情報や数パターンの好みのテイスト、サイズ感、体形の悩みといった大まかなデータを元に選んでいたのに対し、DROBEでは事前アンケートを70問、コーディネートパターン16種類を用意するなど、データ収集のきめ細かさが際立ちます。

豊富な商品ラインアップから選りすぐられたコーディネートは、購入・返品時に利用者から都度フィードバックを受け、次回の選定に反映されていきます。一人一人にフィットしたパーソナルサービスへとどんどん精度が高められていくのです。AIの判定したスコアと顧客の商品希望率との相関係数は0.9以上にもなるといいます。

また、スタイリストと顧客の関係性も特徴的です。ユーザは毎回スタイリストの継続か変更をフィードバックすることができ、100名を超える実績豊富なプロフェッショナルの中から、自分と相性の良い人を選択することができます。そして、選んだスタイリストに直接LINEで着こなしの相談をすることもでき、そのやりとりを通じて関係性がパーソナライズされていきます。自分の好みや時にはライフプランまでを熟知したマイスタイリストとのコミュニケーションを楽しんでいる利用者も多いようです。

DROBEの例からは、スタイリングというサービスにお金を払ってでも「プロの力を借りて新しい自分を見つけたい」「自分をよく知るスタイリストとのコミュニケーションを楽しみたい」という次なるニーズが生まれてきているように思えます。従来日常的なものではなかったスタイリングサービスが「パーソナライズ」という付加価値を持つことで、ユーザに寄り添ったものになりつつあるようです。

リテラシーの上がった利用者、今後はどうなる?

こうしてみると、ファッションサブスク業界は「日常性」重視を脱し、「高級感」「イベント感」「パーソナライズ」といった、新たなキーワードの時代に移ったのではないかという仮説がはっきりしてきます。日常的に数多くの服を必要としていた利用層がレンタル服をワードローブに加えるという新しい習慣に慣れ、ハレの日のおしゃれ着や、コーディネートを楽しむためのスタイリングといった新たな分野にサブスクの活用範囲を広げつつあるのではないでしょうか?

経済合理性や手間の軽減といった実用的なニーズが、「レストランに行くからちょっと素敵な服を」「今日は明るい色で気分を上げてみよう」「新しい自分を発見したい」というプラスオンのニーズへと段階を上げつつあるのです。利用者のサブスクリテラシーは間違いなく向上しています。

実はこれはプロダクトライフサイクルからも説明できます。市場の導入期から成長期にかけて、製品やサービスは当初のシンプルな機能に付加価値を加えていきます。市場に出たときは存在自体が貴重なので最低限の機能さえ備えていればよいのですが、市場に浸透するにつれて消費者のニーズが多様化し、徐々により洗練された機能が求められるようになっていくためです。ファッションサブスク業界も成長期に突入したとみることができそうです。

国内アパレルの市場全体は2000年代をピークに継続的な縮小傾向にあります。一方、ファッションレンタルのサブスクは、ここ数年急激な成長を迎えています。

衣料品・ファッションレンタル分野サブスクリプションサービス国内市場規模推移・予測

(出典)矢野経済研究所

アナザーアドレスとDROBE、いずれのサービスも百貨店発であることは偶然かもしれませんが、リテラシーのあがった消費者が次に求めるのは、百貨店のような確かな品質や高度なサービスをサブスクで取り入れることで、ワンランク上の日常生活に移行することなのかもしれません。フェーズが変わったファッションサブスク業界が今後どのように進展していくのか注目しましょう。

松村 真美子

グロービス・コーポレート・エデュケーション ディレクター