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投稿日:2020年04月29日

投稿日:2020年04月29日

【特集|withコロナ時代 変わるビジネス】進むテクノベート

鈴木 健一
グロービスAI経営教育研究所 所長/グロービス経営大学院 教員
武井 涼子
グロービス経営大学院 教員

withコロナ時代、ビジネスはどのように変わるのでしょうか。テーマごとにグロービス経営大学院の教員がオピニオンを紹介します。本記事のテーマは、テクノベートです。

コロナウイルスはテクノベートを2倍速にする(かもしれない)

筆者:鈴木健一 (グロービスAI経営教育研究所 所長/グロービス経営大学院 教員)

中国や韓国での個人行動追跡アプリの実装により、ビッグデータのインパクトはオーウェルが1984年で描いたビッグブラザーによるディストピアへの不安を感じさせている。一方で、AIによるオープンソースのX線画像の肺炎診断支援(COVID-Net)や、CoVizのように、AIの自然言語処理を用いて指数関数的に増えるコロナウイルス関連の研究論文の相互関係性を可視化するプロジェクトなど、データ×AI×オープンで人間の認知能力を拡張するAIの可能性も見えてきている。

ただ、多くの人が薄々感じている通り、今回のコロナウイルスの感染の広がりのインパクトは、技術そのものへの直接のインパクト以上に、技術を使うユーザーのテクノロジーに対する認識、受容性に与えるインパクトが大きいのではないだろうか。

新しいテクノロジーの受容のされ方は、技術受容性モデル(TAM)によれば、大きく2つの要因、すなわち「有用性の認識」と「使いやすさの認識」によって決まるとされている。今回、コロナウイルスの影響で、例えば米国では労働者の半数近くが実際に自宅からテレワークで仕事をしており、また、教育活動などのオンライン化などもあわせ、Zoomの1日あたりの利用者数はコロナ前の1千万人/日から4月下旬には3億人/日まで激増しているという。多くの人が、仕事や教育、あるいはエンタテインメントの場で新しい技術を試用することで、体感値を伴う形でその有用性と使いやすさの認識を新たにすることだろう。このインパクトは侮れない。しかもこの変化はおそらく不可逆だ。

2003年のSARSの流行は、中国の多くのユーザーとビジネスにインターネットの利用を強い、結果的にアリババ、テンセント、JDなど、中国におけるインターネットビジネスを加速したともいわれている。コロナウイルスは奇しくもユーザーの新しい技術への認識を変え、その受容性を高めることでテクノベートの時計の針の進みをさらに速めることになるのではないだろうか。そしてそのスピードに対応できる企業と対応できない企業の優勝劣敗をも左右するのかもしれない。

ステイホーム時のSNSリテラシー

筆者:武井涼子 (グロービス経営大学院 教員)

緊急事態宣言、そして、東京ではステイホーム週間が始まり、気が付くと仕事でもSNSを使って何かを書き込むことが増えてきた、そんな方が多いのではないかと思います。そこで、SNSに書き込む際のリテラシーの整理をしてみましょう。SNSでの発信は、個人やグループなど特定のメンバーに情報を送る場合と、タイムラインなどで不特定多数に情報を送る場合の大きく二種類に分けて考えるとわかりやすいものです。

まず、個人やグループなど特定のメンバーに情報を送る場合、情報の受け手は知人がほとんどでしょう。個人やグループに情報を送る場合には、相手にプッシュ通知の音が届くこと、相手の通信パケットを消費することを想定して、送る時間、内容などを決めましょう。通知があることから、強制的に相手が内容に注目する可能性が高いツールですので、電話をかけるつもりで情報を送ると間違いがありません。中にはメッセンジャーやLINEのグループなど、親密度が異なる複数人が受け手のケースも。その場合は、参加者の中でもっとも遠い人に電話をかけると考えましょう。夜中にはかけませんし、頻繁にもかけませんよね。用事は一度で済ませよう、と思うはずです。何度も細切れの情報を送るのではなく、良い時間にある程度まとまった情報を届けるようにこころがけてみてはいかがでしょうか。

TwitterやInstagramのタイムラインに情報を送る場合はどうでしょう?この場合は新聞に投稿して、自分の意見が全国の紙面に載る、と考えて情報を送るとわかりやすいでしょう。世の中の不特定多数の人が見るものです。勢いで投稿するのではなく、投書する原稿を作るように、時間をおいて一旦見直し、多様性に考慮して自分とはまったく異なる立場の人がこの投稿を読んでも不愉快に思わないかを見極めてから投稿しましょう。

著作権への配慮も忘れてはいけません。動画や写真を投稿する場合は、その動画や写真を撮った人と、写っている人の両方から掲載許可を得て投稿しましょう。Facebookでは投稿の公開範囲を設定することができます。しかし、誰が投稿をシェアするかわかりませんし、自動で友人などがタグづけられていた場合、自分が公開範囲を狭めていてもタグづけられた友人の友人は投稿を見ることができます。設定ミスも起こりやすい。常に公開投稿のつもりで書き込むほうが無難です。

大事なのは、受け手の立場に立って考えることです。遠い知人がこのメッセンジャーをこのタイミングで受け取ったらどう感じそうか。あなたのまったく知らない、立場の違うだれかがあなたのツイートを見てどう感じるか。必ず想像を膨らませ、思いを致したうえで、一呼吸おいてから投稿しましょう。

GWに出かける内容があったために「サザエさん」が炎上したように、ちょっとした「これくらいは良いだろう」は思わぬ結果を呼びかねません。気軽に投稿できてしまうからこそ、必ず投稿ボタンを押す前に見直して、今読み手が置かれている状況をしっかり想像することを忘れないようにしましょう。

鈴木 健一

グロービスAI経営教育研究所 所長/グロービス経営大学院 教員

東京大学大学院工学系研究科修了、米国シカゴ大学経営大学院修士課程修了

野村総合研究所を経た後、A.T.カーニーにてマネージャーとして経営コンサルティング業務に従事。メーカー、通信事業者の新規事業戦略、マーケティング戦略、オペレーション戦略などの分野で幅広いコンサルティング経験を有する。グロービスでは2006年の大学院設置認可と開学、さらに2008年の学校法人設立など、開学から2016年3月まで10年にわたり事務局長として大学院運営にたずさわってきた。現在は専ら教員として、ビジネス・アナリティクス、クリティカルシンキングをはじめとする論理思考系科目の科目開発、授業を担当するほか、2017年2月より新設したグロービスAI経営教育研究所(GAiMERi)の所長としてAIの経営教育への応用について研究開発を進めている。

武井 涼子

グロービス経営大学院 教員

東京大学卒業後、(株)電通に入社、主に自動車会社のコミュニケーション戦略の立案を行う。その後、外資系広告代理店においてブランド戦略、インタラクティブ戦略等を経験。またFIFAマーケティングと大手ベンチャー企業で、スポーツ&マーケティングと経営企画に携わったのち、コロンビア大学でMBAを取得。帰国後は、マッキンゼーを経てウォルト・ディズニー・ジャパンに転職。マーケティングと事業開発を行う。現在、グロービス主任研究員およびグロービス経営大学院大学教員。東洋大学講師。執筆著書『ここからはじめる実践マーケティング入門』 (ディスカヴァー21社)は日本説得交渉学会学会賞を受賞。 その一方、二期会に所属し、国内外のオペラやコンサートに出演する声楽家でもある。日本歌曲の世界への普及を志す「Foster Japanese Songsプロジェクト」では国連本部などでの活動を、Wall Street Journalにも取り上げられた。Forbes Onlineオフィシャル・コラムニスト。