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投稿日:2019年06月28日

投稿日:2019年06月28日

「問い」に対する「答え」はどう考える?(3)ロジカルシンキングの基本を学ぶ<DAY10・最終回>

岩越 祥晃
グロービス経営大学院教員/グロービス・マネジメント・スクール教員

「答え(=主張と根拠のセット)」はチャートを書いて確認する

最初に、DAY8DAY9で触れた演繹法・帰納法を使って考える際のポイントをあらためて確認しておきましょう。

答え(=主張と根拠のセット)を考えたら、演繹法もしくは帰納法の論理展開に沿っているかをまず確認しましょう。その際、慣れない間は以下のようなチャートを実際に紙に書いて、箱の中身を書き出してみると正しい論理展開を用いて考えられているかの確認が容易になります。

論理展開について確認したら、次は一つひとつの箱の中身について、客観的妥当性があるかを確認しましょう。主張や根拠の内容に違和感を抱いたら、迷わず中身を見直します。見直すことなど当たり前のように思えますが、私たちはどうしても最初に思いついた考えに固執しがちです。

論理思考力を鍛えるためには、常に自分の考えに批判的であることが求められますので、考え出した答え(=主張と根拠のセット)に対して、「誰が聞いても納得感があるのか?」「それは本当なのか?」「なぜそう言えるのか?」といった「問い」を自分に投げかけることを癖づけるようにしましょう。

こうした営みを繰り返していると、次第にスピーディに納得感のある答えを構築できるようになります。自分に批判的になるというのは、言葉にすることは簡単なのですが、実際はとても難しいものです。最初はスムーズに思考が進まず面倒に感じる場合も多いかもしれません。しかし、さきほどお伝えした「問い」を自分に投げ続けていれば、徐々に変化を感じるようになるはずです。愚直に自らに「問い」を投げ続けましょう。

ではここで、DAY7で紹介した部長と課長の会話を答え(=主張と根拠のセット)を考える際に考慮すべき2つのポイントに沿って確認してみましょう。

・演繹法もしくは帰納法の論理展開に沿っているか?
・主張と根拠の内容に客観的妥当性があるか?

ではまず、「演繹法もしくは帰納法の論理展開に沿っているか?」をチェックするために、課長の主張と根拠のセットを演繹法と帰納法の論理展開に沿ってチャート化したいと思います。

このチャートを見て、「DAY7で見たチャートと違うのでは?」と思ったのではないでしょうか。その通りです。DAY7で確認したのは以下のチャートでしたが、丁寧に作ると上のチャートのような論理展開になります。

課長の主張と根拠は、チャート化してみると演繹法・帰納法の論理展開には沿っていると言えそうですね。では、続けて「主張と根拠の内容に客観的妥当性があるか?」について確認してみたいと思います。営業能力、人材育成能力、成長意欲の高さの3項目は、一般論に照らし合わせてみると営業リーダーに求められる最低限必要な能力だと言えると思いますので、観察事項が事実であれば、客観的妥当性はあると言えるでしょう。

この事例を通じてお伝えしておきたいことが2点あります。

1つ目は、私たちが答え(=主張と根拠のセット)を考える際には、課長の論理展開で確認したように演繹法と帰納法を組み合わせて使っていることが多いのです。普段はこのように目に見える形でチェックすることはないので、自分が演繹法や帰納法を多用していることに気付いていないだけなのです。繰り返しになりますが、答えに説得力が求められる場面では、頭の中だけで考えるのではなく、このようにチャート化して論理展開の客観的妥当性をチェックするようにしましょう。

2つ目は、演繹法では多くの場合、「前提」は省略されてしまう点です。DAY7で紹介したチャートを見ると、見た目は帰納法に見えますが、実際には「我が社の営業部門のチームリーダーに求められる要件は、営業能力・人材育成能力・成長意欲である」という前提が省略されているのです。このように、日常会話においては、演繹法における「前提」はしばしば省略されます。

「前提の一致」を「偶然の一致」にしない

「前提」が省略されてしまう理由は2つあります。ひとつは「前提⇒観察事項⇒結論」の順番に話すと話が長くなり、話し手は面倒ですし、聞き手は冗長だと感じてしまうからです。2つ目は、「前提」を説明しなくても、聞き手も同じ「前提」を当てはめてくれるだろうと、話し手が思い込んでいるからです。

こうした理由から「前提」はしばしば省略されるのですが、その結果、話し手の考えが聞き手にうまく伝わらないという問題が生じてしまうのです。ゆえに、誤解が生じる可能性を排除したい場合には、冗長になったとしても、「前提」をしっかり伝えるようにしましょう。

今回取り上げた営業部長と課長の会話では、お互いに置いている「前提」がそろっていたため、課長の意見が部長にすんなりと受け入れられました。しかし、ここで大切なことは、「前提の一致」が偶然なのか、あらかじめお互いに認識合わせができていたのかという点です。コミュニケーションの成功確率を高めるためには、「前提の一致」を「偶然の一致」にさせないことが大切です。

以上で、本コラムは終了です。それでは最後に、これまでにお伝えしてきたことをまとめておきたいと思います。

まとめ

(1)論理的に考えるとは、「問い」と「答え(=主張と根拠のセット)」を考えること。ゆえに、何かを考える際には、以下の3点について考えること
・答えを出すべき「問い」は何か?(考える目的を明確にする)
・その「問い」に対して自分はどう答えるのか?(主張を明確にする)
・なぜその答えなのか?(根拠を明確にする)

(2)何かを考える際に最初にやるべきことは、答えを出すべき「問い」を押さえること。複数の「問い」がある場合は、以下の判断基準に照らし合わせて「答えるべき問い」の優先順位をつけること
・今、答えを出すべきなのか?(緊急度)
・担当業務の目標やミッションに対して大きなインパクトを与え得るのか?(重要度)
・答えを出せるのか?(実現可能性)

(3)「問い」に対する「答え」は、主張だけではなく根拠もセットで考えること。主張と根拠のセットを考える際には、以下の2点を確認すること
・演繹法もしくは帰納法の論理展開に沿っているか?
・主張と根拠の内容に客観的妥当性があるか?

このコラムでお伝えしてきたことは、実際のクラスで扱っていることのほんの一部になります。これを機会に論理思考に興味を持たれた方は、グロービス経営大学院グロービス・マネジメント・スクールの「クリティカル・シンキング」のクラスへぜひお越しください。みなさんといつかグロービスでお会いできることを楽しみにしています。

岩越 祥晃

グロービス経営大学院教員/グロービス・マネジメント・スクール教員

担当科目は「クリティカル・シンキング」「ビジネス・プレゼンテーション」「ファシリテーション&ネゴシエーション」。同志社大学法学部政治学科卒業、関西学院大学大学院経営戦略研究科修了(MBA)。エンタテインメント関連企業を経て、グロービスに入社。現在は、グロービス経営大学院及びグロービス・マネジメント・スクールの教員及び教材の開発を担当するとともに、株式会社グロービスにてマーケティング業務のマネジャーも務めている。