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投稿日:2019年06月13日

投稿日:2019年06月13日

「問い」に対する「答え」はどう考える?ロジカルシンキングの基本を学ぶ<DAY8>

岩越 祥晃
グロービス経営大学院教員/グロービス・マネジメント・スクール教員

主張と根拠のセットを考える際に留意すべきこと

DAY2でお伝えしたとおり、論理的に考えるとは、

「問い」と「答え(=主張と根拠のセット)」を考えること

でしたね。

この連載コラムの最重要ポイントなので何度も繰り返しますが、ビジネスにおいて何かを考えるという営みには、原理原則があるのです。その原理原則とは、まずは答えを出すべき「問い」を明確にすること。そして、その「問い」に対して答えを出すことです。加えて、答えは主張と根拠をセットで考える必要があることをあらためて確認しておきましょう。

しかし、頭の中に浮かんでくることを適当に主張と根拠として並べればよいわけではありません。主張と根拠のセットを考える際に必ず考慮すべきことが2つあります。

それは、

  • 演繹法もしくは帰納法の論理展開に沿っているか?
  • 主張と根拠の内容に客観的妥当性があるか?

です。

今回はまず「演繹法(えんえきほう)」について説明したいと思います。

最初に確認しておきたいことは、聞き手から「なるほど。よく分かった!」という反応を得られる説明は、「演繹法」と「帰納法」という2つの論理展開を用いて主張と根拠が構築されています。ゆえに、コミュニケーションの成功確率を上げるためには、これらの論理展開とそれらを用いて考える際の留意点をよく理解し、使いこなせるようになる必要があります。

前提に観察事項を当てはめて結論を導く「演繹法」

演繹法とは、一般的には三段論法と呼ばれることが多く、「前提(一般論や常識、ルールなど)」に「観察事項」を当てはめて、結論を導くという論理展開方法です。

このように説明するとややこしく聞こえますが、以下の事例を見ると極めてシンプルな考え方だと理解できるはずです。また、日常生活においても無意識のうちに同じような考え方を用いて、結論づけをしている場面が多々あることにも気づくはずです。

「お年寄りには席を譲るべき」<前提>
「お年寄りが電車に乗ってきた」<観察事項>
⇒「お年寄りに席を譲ることにした」<結論>

「営業目標を達成した人には、冬のボーナスを月給3ヶ月分もらえる」<前提>
「上期の営業目標を達成した」<観察事項>
⇒「冬のボーナスは、月給3ヶ月分もらえる」<結論>

これらの事例をチャートで表してみると以下のように表現できます。

チャート化するとわかりやすいと思うのですが、演繹法は前提と観察事項が根拠となって、結論である主張を導き出しているのです。このように演繹法は前提と観察事項があれば、結論は必然的に導き出されます。つまり、前提と観察事項が同じであれば、基本的に誰が考えても同じ結論になるという論理展開なのです。

前提や観察事項は本当に正しいか?

では、ここで演繹法を用いて結論を導き出す際に留意しておくべき点を2つお伝えしておきたいと思います。

1つ目は、「前提の正しさ」についてです。

前提には、「人はいつか死ぬ」や三角形の合同条件といった自然科学の原理原則、法律など、誰もが共通の認識を持っている可能性が高いものもあれば、「目上の人を常に敬う」「家に上がる際は靴を脱ぐ」といった道徳や生活習慣などの文化的な要素を含むもの、「声が大きい人は健康だ」「酒好きには陽気な人が多い」といった個人の経験則によるものなど、人によって認識にバラツキがある前提もあります。

ゆえに、自分が用いている前提がどの程度、周囲に受け入れられるものなのかについて、常々確認する必要があります。「周囲の人たちも自分と同じように前提を認識してくれるはず」という勝手な思い込みが、コミュニケーションギャップを生む要因のひとつになっているのです。

留意しておくべき点の2つ目は、「観察事項の正しさ」についてです。

正しいと思っていたことが、実は認識違いで事実ではなかった場合も、当然ながら結論は誤ったものとなります。ゆえに「観察事項」に対しては、常にその信憑性(しんぴょうせい)について確認することを怠らないようにしてください。

さきほど挙げた事例でも、「遠くから見た際はお年寄りと思ったが、実際には若かった」という場合は、結論が変わってきますね。また、「営業目標を達成した」と思っていたけれど、請求書発行タイミングの問題で一部の売上が翌期に持ち越されており目標未達になっていたとしたら、当然「冬のボーナスは、月給3ヶ月分もらえる」という結論は誤りとなってしまいます。

これら2つの留意点を通じてお伝えしたいことは、演繹法の論理展開に沿って結論を導き出したとしても、答え(=主張と根拠)に納得感が生じることが保証されるわけではないということです。

ゆえに、主張と根拠のセットを考える際の留意点として、「演繹法もしくは帰納法の論理展開に沿っているか?」だけではなく、「主張と根拠の内容に客観的妥当性があるか?」というポイントが存在しているのです。演繹法を使って「答え」を導き出した際には、「前提」および「観察事項」の正しさについて確認するクセをつけましょう。

次回のコラム(DAY9)では、「帰納法」について、考えたいと思います。

岩越 祥晃

グロービス経営大学院教員/グロービス・マネジメント・スクール教員

担当科目は「クリティカル・シンキング」「ビジネス・プレゼンテーション」「ファシリテーション&ネゴシエーション」。同志社大学法学部政治学科卒業、関西学院大学大学院経営戦略研究科修了(MBA)。エンタテインメント関連企業を経て、グロービスに入社。現在は、グロービス経営大学院及びグロービス・マネジメント・スクールの教員及び教材の開発を担当するとともに、株式会社グロービスにてマーケティング業務のマネジャーも務めている。