テクノベート時代を導く、 日本型オープンイノベーション 和ノベーション」

株式会社ローランド・ベルガー
代表取締役社長 工学博士
長島 聡

日本型インダストリー4.0:「和ノベーション」で創造する未来は、2020年度は開講予定がありません。

事業運営や意思決定の効率化が、
異次元のスピードで進む時代

私たちは今、人の動きに近いロボットの出現やコンピューティングパワーの大幅な向上といったテクノロジーの進化が、イノベーションを生み出す「テクノベート時代」を生きています。IoT技術の進化によって、今まで目に見えなかったことが可視化され、人間が理解できる世界が急速に広がっています。また、取得できるデータの種類や量は増え続け、様々な切り口で大量のデータを分析することが可能となり、人間だけでは発見できなかった課題を見つけられるようになりつつあります。

その結果、ほとんどの産業においてデータの蓄積量が爆発的に増え、分析精度も向上し、事業運営や意思決定の効率化は異次元のスピードで進んでいます。テクノベート時代を生きるビジネスパーソンは、この点を強く認識しておかなければなりません。
しかし、こうした時代の変化の波に乗るには、モノをインターネットにつなぐといった発想だけでは不十分です。収集できるデータの量と種類が圧倒的に増えるため、安価にデータを可視化できる環境を構築することが必要になります。さらに重要なのは、データを見ることに無闇に時間と費用をかけすぎず、アクションにつながるデータだけを見ることです。加えて、そこから得た課題に基づいて、迅速にアクションを起こせる組織づくりが、短期的には勝敗を分けるのです。

効率化の戦いはいずれ終息し、
創造性の戦いに移行する

一方で、長期的目線で見た時に重要なことは、いずれ事業運営の改善は極限まで突きつめられ、効率化を主軸とした戦いは終息するということです。主戦場は、「創造性」に移っていきます。

私たちローランド・ベルガーでは今、「創造生産性」を提唱しています。生みだした価値を時間で割るのが生産性であり、テクノロジーが生み出す効率化の戦いとは分母をいかに小さくするかを意味しています。一方、分子は、製品、サービスでどれだけ収益を上げるか、つまり付加価値の創造を意味します。分母(効率化)の戦いは近い将来に決着し、その後は分子の戦い、つまり創造性が問われる時代に突入するのです。

オープンイノベーションの成功には
「密度の濃い」関係構築が必要

創造性を高め、新しい価値を生み出すには、今までと異なる視点を得ることが重要です。社内に閉じこもっているのはよくありません。社外の人と協業するオープンイノベーションを進め、従来と異なる視点を常に取り入れることができれば、創造性を高めることは可能です。ただし、より良いオープンイノベーションを進めるには、「密度の濃さ」の重要性を認識する必要があります。

例えば、大企業とベンチャー企業が業務提携しただけでは、イノベーションは生まれません。その最大の要因は、両者には共通言語がないことです。両者にそのつもりはなくても、マネジメントの様々な場面で、結果的にそれぞれの企業の常識を押しつけるということが往々にして起こります。大企業側に「守秘義務や権利の主張方法は、当社ではこう決まっています」と断定口調で言われてしまうと、ベンチャー企業側はコミュニケーションを面倒くさがってしまう。オープンイノベーションの成功は、共通言語を丁寧に作り上げ、価値観まで共有できるレベルまで持っていくこと。そのために、密度の濃い関係を構築することに心血を注ぐことが、肝になります。

超高密度の
日本型オープンイノベーション
「和ノベーション」

創造生産性を上げるための方法としてローランド・ベルガーでは、日本型オープンイノベーションという意味合いで「和ノベーション」を提唱しています。「和ノベーション」とは、3つの「わ」、つまり日本の「和」、対話の「話」、仲間の「輪」を組み合わせた造語です。「和」とは、日本の企業や個人が持っている潜在力を見える化し、組み合わせ、未来や新たな価値を描くこと。「話」は、部門、企業、業界を超えて、描いた未来や新たな価値の実現方法についての対話を促進することを意味します。「輪」とは、志を共にした仲間が集い、異なる能力の輪をつなぎ、未来志向で組織全体の能力を拡張することです。そして「和・話・輪」に基づいた活動は、歴史的に日本人が得意とするもので、「和ノベーション」は日本ならではのオープンイノベーションだと考えています。

「和ノベーション」は既存のオープンイノベーションと比較して、「密度の濃さ」が全く異なります。私たちは現在、「日本を良くしよう」という高い志を持った12社の企業と共に「和ノベーション」を進めており、各社の名刺の裏には、仲間であるこれらの企業名を掲載しています。そして、そこには社名やロゴだけではなく、創造性を上げるために、仲間企業にどんな形で貢献するのかまで記載しています。いずれの企業も製造業に深い関わりがあり、それぞれが全社をあげて「和ノベーション」の価値観を共有しています。これらの企業とは、共同で商品を開発することはもちろん、バックオフィス同士の交流や合同の採用説明会、階層毎の交流イベントの開催なども行っています。また、社内研修も相互に提供する予定です。社長同士はもちろん、役員、社員それぞれの階層でつながっており、共通言語もあるので、課題解決もスムーズです。そしてお互いのことを深く知れば知るほど、仲間企業の能力がよくわかるようになり、これらの企業の力を借りて、創造性を高めることが可能になります。もし今後、プロジェクトを推進するにあたって12社間で足りない技術があれば、仲間企業から紹介をしてもらいます。お互いの会社を隅々まで知っている企業からの紹介は、安心感が違います。

和ノベーションを構想すること

「和ノベーション」における構想とは、生み出したい社会やシーン、価値を、現実感を持って具体的に描くことです。例えば、自動運転で世界一になるための議論をするとします。現時点では、多くの人の頭の中には、自動運転社会が近い将来、現実のものとなるイメージがあると思いますが、完全な自動運転社会は現時点の技術では実現しません。また、自動運転により事故の確率が限りなくゼロに近くなることを世の中に説明し、自動運転社会への移行に納得してもらう必要がありますし、誰の命を優先するプログラムを埋め込むかという「倫理的ジレンマ」も解決しなくてはなりません。

こうしたことを踏まえると、完全な自動運転技術が、いつ完成するかわかりませんし、その技術を活用したビジネスも見えてきません。そうであるならば例えば、移動制約者が多い地域かつ人口の少ないところなど、今の自動運転技術で走れる道路を探し、そこだけを走れるレベルの自動運転車を仲間企業の力を借りて創る。自動運転技術が上がれば走れる道路が増え、1%、3%、そして10%と徐々に自動運転が普及していきます。このように現実感と具体性を持った上で、技術革新と事業化の速度を上げていけば、世界一になれる可能性は高まるはずです。このように考えることが、「構想する」ということなのです。

意志、そして自身の多様性

「和ノベーション」を推進するために、最も重要だと考えているのは「意志」です。意志は、イノベーションやビジネスを構想し、異なる価値観の人と会話するための、軸となるものです。日本の時間当たり労働生産性は米国の約2/3ですが、これは日本人が構想する力がないからでなく、意志を持って構想を周囲にぶつけないことが大きいと考えています。
加えて、「自分の中に多様性を持つこと」も重要です。現在は多様な価値観が認められた時代であり、自分の価値観と異なる人にも「いいね」と言ってもらえる製品やサービスを生み出すことは重要です。もし自分の中に多様性がなければ、異なる価値観に出会っても「自分とは違う」と距離を置いてしまい、ステイクホルダーとの会話やビジネスの構想は広がらず、イノベーションは起きにくい。

しかし、「和ノベーション」のような多様な人との密度の濃い関係性があれば、自分とは異なる価値観を持つ人とも自然と会話できるようになり、多様性は自然と身に付きます。そして、躊躇なく「まず聞いてみよう、まず触れてみよう」といったことができるようになり、新しい構想も考えやすくなります。「あれとこれとこれを組み合わせたら、何かできるのではないか」といったアイデアが思い浮かびやすくなり、自然と創造生産性は高まります。
グロービスで、意志や多様性、構想力を磨くことは、よいアプローチのひとつでしょう。「和ノベーション」を進めることで日本の創造生産性は向上し、そう遠くない未来に、これまでにない元気な日本が実現するはずです。

_PROFILE

株式会社ローランド・ベルガー

代表取締役社長 工学博士

長島 聡

大学院修了後、早稲田大学理工学部助手、ローランド・ベルガーに参画。自動車、石油、化学、エネルギー、消費財などの製造業を中心として、グランドストラテジー、事業ロードマップ、チェンジマネジメント、現場のデジタル武装など数多くのプロジェクトを手がける。特に、近年はお客様起点の価値創出に注目して、日本企業の競争力・存在感を高めるための活動に従事。自動車産業、インダストリー4.0/IoTをテーマとした講演・寄稿多数。

肩書はインタビュー当時のものです

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