

グロービス・ライブラリー
- グローバル
- 起業
- 知見録PICK UP
2022年06月08日
2022年06月08日
グローバルで戦ってきたスタートアップ役員が語る「覚悟」と「視座」
- 山崎 史也
- XYZ GOAT CEO / Founder
- 髙原 康次
- グロービス経営大学院 教員/創造ファカルティグループ ファカルティ・コンテンツリーダー
グローバルでの急成長プロダクトの開発・提供に成功したものの、競合の取ったブリッツスケーリング戦略によってトップの座を奪われたという経験を持つ山崎氏にお話を伺う企画。前編に続き、後編では山崎氏と、日本におけるブリッツスケーラーについて研究を進めるグロービスの髙原との対談を通じ、ベンチャー企業が成長を遂げるための具体的な施策を探っていく。
どの山を登るか、その山の高さを正しく見積もれるか
髙原:山崎さんはこれまでも、様々なプロダクト開発に携わったご経験をお持ちです。その中で、スケールしやすいサービスやプロダクトの特徴は何か見えていらっしゃいますか。
山崎:BtoCにおける特徴になりますが、ひとつはノンバーバルなプロダクトであることです。グローバル目線で見ると、言葉を必要としないプロダクトは伸びやすいようで、例えば先ほどの顔交換のようなプロダクトなどが当てはまります。よってカメラにまつわるものなどはスケール余地が大きいのではないかと考えています。
髙原:言葉がなく、直感で使われるからこその突破力ですね。前編ではそういったグローバルで通用するプロダクトをつくろうとする強い覚悟と高い視座が重要であるとお話しされていましたが、これらを最初から持つことは難しいようにも思えます。山崎さん自身は何をきっかけに覚悟や視座を得たと思われますか。
山崎:確かにいきなりは難しいかもしれません。だからこそ、複数回チャレンジしていくこともひとつの方法です。私の前職のメルカリの山田進太郎氏も然りですが、成功する方は複数回チャレンジしていることが多々あります。何度も挑戦するうちに強い覚悟や高い視座を持てるようになり、そこで掴んだ勘所が更に高い山に登る勇気を与えてくれるのではないでしょうか。
髙原:山の例えが出ましたが、どの山を選ぶかでひとつ決まるというのは、G-STARTUP(グロービスのアクセラレータープログラム)においてもよく話題になります。高尾山に登るのか、エベレストに登るのか、選んだ山によって準備の仕方も違えば、その後見える景色や得られるものも全く異なります。より大きなものを得るには、いかに高い山を選ぶかということが重要です。
山崎:まさに山の選び方と、加えて選んだ山の高さを正しく推定できるかも大切です。お話ししたifaceの事例で言えば、私は顔交換アプリというプロダクトの山の高さを低く見積もっており、伸びても1千万ダウンロード程度だろう、との想定で事業計画や戦略を組んでいました。しかし蓋を開けてみると3億ダウンロードのポテンシャルがあった。山がもっと高いことを想定して、適切な準備や登り方を取った人たちが勝ったという面では妥当な結果だったと思っています。
グローバルで戦うために、海外目線を言語化する
髙原:次に、今の時代におけるグローバル前提での戦い方について深堀りしたいと思います。ターゲットとする国はアメリカと当初想定されていたとのことですが、実際はベトナムとタイで自然発生的に火がつき、そこからUSにも届いたそうですね。門外漢からは不思議に思えるのですが、この流れはなぜ起こったと分析されていますか。
山崎:これは難しいのですが、TikTokが先に流行していたことが大きいと考えています。前提としてベトナムやタイでは自撮り文化が当たり前で、SNSでのセルフブランディングに対する関心が強い。そんな文化にフィットしたTikTokで、何かバズりそうなものをクリエイターが探していたタイミングだったようです。丁度そこに顔交換という新しくて面白い動画をつくるツールが出てきたことになり、注目を集めたのではと思っています。
髙原:スタートアップでよく課題になるのが、ユーザーの解像度をいかに高めるのかという点です。ベトナムやタイで火がつきはじめたとしても、どうやってユーザー解像度を高めるのか、悩むことは多そうですね。
山崎:究極的には現地に行かないと分からない面はあります。ただ、日本でもできる手法として、バベルではその国出身の方をマーケティングのインターンとして採用していました。すると「なんでバズってるんだっけ?」という疑問を現地の目線で言語化してくれます。これには得るものが大きかったです。
髙原:バベルには、マーケティングだけでなくエンジニアにも海外出身者がいたと伺いました。事業開発メンバーに限らず、エンジニアやデザイナーも海外から招くメリットについて改めてお聞かせ下さい。
山崎:メンバーを日本人で固めてしまうと、日本語でプロダクトを作ったうえで、更にグローバルに出るための翻訳作業が発生するので手間がかかります。対して英語でコミュニケーションをとって、英語でデザインを作って英語で実装すると、翻訳コストが省けます。そこですべてを英語で開発することを前提に、エンジニアはフィリピンやインドネシアから雇用しました。
髙原:翻訳作業を省き、適切な言語で最初から開発してしまうというのは重要そうですね。
山崎:とはいえ言語は最低ラインでして、もっと重要なところは市場観やカルチャーに合ったプロダクトになるかです。例えばスマートニュースがUS展開にあたりポリティカルスライダーボタン(政治ニュースを閲覧する際、利用者自らがスライダーを左右に動かし、リベラル寄りの記事、保守寄りの記事、中立の記事に表示を変更できる機能)を実装したことが話題になりましたが、これは日本人だけの発想ではあり得なかったのではないかと思います。
ではどうするかというと、やはりユーザーに近い勘所をもって開発できる人材を集めることが必要です。海外からエンジニアを集めたメリットはこの点にもありました。日本で使われているアプリはある種ガラパゴス化していますが、フィリピンやインドネシアではUSでも流行しているアプリがそのまま使われることが多いです。そのため、ターゲットとするユーザーと感覚の近いメンバーでプロダクトを開発することができていました。
髙原:そうした様々なメリットを鑑みて、海外から優秀なエンジニアを集めたいと考える起業家は多いと思います。海外のエンジニアに声をかける際に使っていた口説き文句はなにかありましたか。
山崎:「日本発でグローバルを目指そう」という話にワクワクして、ジョインしてくれた方が多かったと思います。日本を好意的に捉え、グローバルプロダクトを輩出しうる国として見てくれたので、そこにコミットしてくれたのだと思います。
ブリッツスケーリングをひとつの選択肢として知る
髙原:最後に山崎さんから、ベンチャー企業の経営に関わる皆さんにメッセージをお願いします。
山崎:今回のテーマとなったブリッツスケーリングは、効果的な手法であるものの、万人が使うような手法でもないと思っています。ただ、勝負するときにはこういう手法があるとも知っていてほしい。自分が直面した時には使ってみようと思えるオプションのひとつになればと思います。
髙原:黒字で戦いぬけるマーケットならそれでいい。しかし先行者になれるかが重要な領域では、黒字のキープにこだわっていると、あっという間に追い抜かれていきます。それは大変もったいないのではないでしょうか。是非ブリッツスケーリングを1つの戦略として知って頂ければと思います。
山崎 史也
XYZ GOAT CEO / Founder
髙原 康次
グロービス経営大学院 教員/創造ファカルティグループ ファカルティ・コンテンツリーダー