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2022年06月07日

2022年06月07日

「完敗」側から見た、スタートアップの急成長を成功させるメソッド

山崎 史也
XYZ GOAT CEO / Founder

圧倒的なスピードかつ指数関数的な成長を可能とする経営戦略、ブリッツスケーリング(BLITZ SCALING)。メルカリやマネーフォワードの取った戦術がこれに当てはまるが、彼らブリッツスケーラーの「圧勝」の一方で涙をのんだ企業もある。今回は前職である(株)バベルにて、グローバルでの急成長プロダクトの開発・提供に成功したものの、競合が取ったブリッツスケーリング戦略によってトップの座を奪われたという経験を持つ山崎 史也 氏によるセミナーの様子をお伝えする(Venture Café Tokyoにて開催)。

ノンプロモーションながら全世界で数百万DLを達成したiface

バベルで提供していたのは、ifaceというAIを使った顔交換スマホアプリです。このアプリで自撮りをすると、自分の顔が動画内の顔にスワップ(取り替え)されます。すると例えば、自分が映画内のワンダーウーマンになったり、レオナルド・ディカプリオになったり、Victoria Secretのランウェイモデルになったり動画を簡単に作成できるのです。プロダクト内容自体に高いバイラル性があるのが特徴です。

2020年の夏頃、InstagramやSnapchat、TikTokなどで全世界的に顔交換のプロダクトが流行りました。その頃ifaceと共に急成長した顔交換アプリが、ウクライナ発のスタートアップ、NEOCORTEXT, INC.が提供するRefaceでした。

ifaceとRefaceの違い

2つのプロダクトには共通点が多くありました。まずリリース時期は、いずれも2020年3月ごろでした。またターゲットについては、英語圏のユーザーで、特にInstagramやSnapchatのネイティブユーザーである世界中の若い女性を想定していました。英語圏を押さえれば全世界に普及させることが出来ると考えたからです。

異なっていた点もあります。AIの精度、つまり「顔を交換する」際にどれだけリアルに、滑らかに、ユーザーの特徴をおさえたものを作れるかという面については、リリース時点では差がありました。我々ifaceはR&Dに半年ほどかけており、その分高い精度を持てていたのです。また利益率は、ifaceは黒字を保っていた一方、Refaceは赤字のようでした。

しかし、結果的にはRefaceが「圧勝」しました。ifaceは1年弱のダウンロード数が100万回でしたが、Refaceは同期間で1億回でした。このスピードは顔交換以外のアプリと比較してもかなりの速さです。例えばInstagram、Snapchat、TikTokは1億ダウンロードまで28ヶ月前後かかりました。しかしRefaceは、14ヶ月で1億ダウンロードを突破したのです。まさにブリッツスケーリングと言える成長ではないでしょうか。

Refaceの勝因

Refaceの勝因、イコールifaceの敗因について整理してみたいと思います。

1.Android版への対応

日本国内に限ればあまり関係ないものの、グローバルで見ればユーザーの多数を発展途上国の方が占めるAndroid端末向けプロダクトは、あまり売り上げに繋がらないとされています。繋がったとしてもサーバー代を回収できるほどではなく、単純に言えば赤字になってしまう確率が上がるのです。

我々ifaceは早い段階から黒字を保つという点を重視していたため、iOSアプリにのみプロダクトを提供していました。ただ、Refaceはリリース当初から、iPhoneとAndroidの両方に対応していました。今振り返ると、全スマホユーザーをカバーできたからこそ「友達が使っているから使ってみよう」で拡散されていくような、プロダクトのバイラル性の高さを活かすことができていたのです。

2. プロダクトの磨き込み

前述の通り、リリース当初はifaceが勝っていたAI精度ですが、Refaceはリリース後3ヶ月ほどで一気にifaceを圧倒するクオリティのAI精度になりました。これが最終的にはプロダクトの差別化要因になりました。

3.常識にとらわれない、積極的な事業開発

もうひとつが、プロダクトの外での戦い方です。

Refaceが取った戦略の例のひとつが、世界的な歌手であるジャスティン・ビーバーとのコラボレーションです。言わばポッと出のスタートアップがコラボレーションを申し出ても難しい相手に対して、Refaceは同社の成長が利益になるよう、ジャスティン・ビーバーのマネージャーに株主になってもらうという手法をとりました。結果、まるでユーザー自身がジャスティン・ビーバーの新曲PVに出演しているかのような動画をReface上で作れるようにする、という企画が実現しました。

よくあるコラボのように思えるかもしれませんが、Refaceがこのような方法を取ったのはアプリのバイラル性からして成果が見込めるからです。実際、ジャスティン・ビーバー本人によるコラボ告知ツイートを通じて、ファンはサービスを認知し、自分が顔交換したPVの映像をSNSに無数にアップロードしました。すると更に彼らの友達にプロダクトの認知が広がっていき、次々にユーザーを引き入れていったのです。

プロダクトを磨き込めば伸びると信じるIT企業は多いかもしれませんが、それだけにとらわれてはいけません。プロダクト外でもリスクをとって、かつ常識にとらわれない戦略を取ることが重要だと知った経験でした。

「大敗」から得た学び

結果的にifaceはダウンロード数や収益の面で大差をつけられ負けてしまいました。東京のオフィスから1億ダウンロードを突破するプロダクトが出る可能性があったことを考えると、非常に悔しい思い出です。

ここまでRefaceの勝因について考えてきましたが、学んだことは、結局のところ「覚悟」と「視座の高さ」で勝負が決まるということです。

このプロダクトは上手くいくのか?来年は?2年後はどうなっているのか?といった不確実性への躊躇は、シードスタートアップであればどこでもあると思います。しかし、自分の中に確固たる戦略や自信があるのであれば、「覚悟」を持ってお金やリソースを投下すべきなのです。それを実行したRefaceは確かに一時的には赤字でした。ですが現在は、毎月数億円というシードスタートアップとしては十分すぎるほどの売上へと業績を伸ばし、投資を回収しています。

また、「高い視座」を持つことが大切だとよく言われますが、当時はピンときていませんでした。結果が出ていないのであれば身の丈に合った視座で今できることを精一杯やり、結果が出た時に視座を上げよう、と思っていたからです。

ただ今回の経験でわかったことですが、はじめから高い視座を持っていないと、「大勝ち」前提での大胆な戦略立案・実行は実現できません。プロダクトがない中でも、結果が出ない中でも、高い視座だけは持ち続ける。「1億ダウンロードを20ヶ月で絶対達成する」といったマインドセットは、たとえ達成できなくても持ち続けるべきなのです。

そして最後に加えると、経験を積んで勘所を掴むことの大切さも学びました。

初めて経験したブリッツスケーリングの渦中は、「これがブリッツスケーリング中なのか」という実感はありませんでした。そのため、いつアクセルを踏むべきなのか、いつブレーキを踏むべきなのかも全く分からず、振り返ると悔しい場面が多くありました。しかし、この経験があったからこそ今後は決断の勘所が分かってくる。USのスタートアップの方々は何回も何回も起業のサイクルをまわしていることが多いようですが、同じ理由で経験から勘所を掴んでいるのではないかと思います。

後編へ続く)

山崎 史也

XYZ GOAT CEO / Founder