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投稿日:2021年04月20日

投稿日:2021年04月20日

リモートワークでの「心理的安全性」のつくり方

石井 遼介
株式会社ZENTech取締役/一般社団法人日本認知科学研究所理事/慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科研究員
新村 正樹
グロービス経営大学院 教員/グロービス・コーポレート・エデュケーション ディレクター

グロービス経営大学院とflierが共催した「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」で、『心理的安全性のつくりかた』が総合4位、マネジメント部門1位にランクイン。著者の石井遼介さんに、日本ならではの心理的安全性のつくり方の4つの因子とリモートワークでの心理的安全性のつくり方について聞きました。インタビュアーは、グロービス経営大学院教員の新村正樹です。(全2回後編)

前編はこちら

「心理的安全性=ヌルい職場」という誤解

新村:心理的安全性に取り組む企業も増えてきましたが、組織に心理的安全性を浸透させていくうえで難しい部分はどこですか。

石井:まずは、経営トップの理解でしょう。心理的に安全にするというと、「ヌルくなるんじゃないか」と誤解する方が多いんです。背景には「罰を与えて厳しくすることが成果を上げる手段だ」という考え方がありますが、実際は逆で、罰を与えることには行動を減らす効果しかない。社員に頑張ってもらいたければ、心理的安全性を目指した方がうまくいきます。その重要性を経営トップが認識し、心理的安全性を目指すと宣言することで、管理職やリーダーの方々も途中ではしごを外されることなく、安心して良いチームづくりに向かっていけるでしょう。

新村:経営トップの理解が大事なのですね。すると、経営層にそうした認識を持ってもらうためには何がポイントになってきますか。

石井:我々がトップの方とお話するときは、ダイバーシティやコンプライアンスの文脈から入ることが多いですね。社員に成果を求めすぎて、そこに会社からのフォローがなかったりすると、不正をしたりお客様に迷惑をかけてでも数字をつくりにいく社員も出てくる。そういう経験を経て、心理的安全性に関心を持つトップも方もいますから。

新村:Googleがイノベーションのために心理的安全性を重視しているのは有名です。また、最近は「両利きの経営」(企業がイノベーションを起こすために、知の進化と知の探索を同時に行うこと)が注目されていて、「知の探索が大事だ」という経営者が増えています。挑戦して失敗してもいい環境づくりという点でも、心理的安全性は経営者に響くかもしれません。

石井:その文脈もいいですね。仰る通り、失敗ができず、正解と分かっている道をなぞることしか許されないなら、知の探索どころではないんですよね。

新村:心理的安全性を浸透させる1つ目のポイントがトップの理解でした。2つ目は何でしょうか?

石井:2つ目は、可視化です。心理的安全性には4つの因子――①話しやすさ、②助け合い、③挑戦、④新奇歓迎――があります。まずは自分たちのチームはどこが高くてどこが低いかを把握していただく。現状を把握しないと、何を変えるべきなのかわかりませんから。

新村:心理的安全性はアメリカで流行った概念なので、日本企業にそのまま使えるのか不安を抱く人もいると思いますが、石井さんが日本独自の因子を分析されて4つを抽出されたのは興味深いですね。読者が自分でできることとしては、何があるでしょうか?

石井:まずは4つの因子に向けて、何か1つ行動してほしいですね。例えば、メンバーが話しにくそうにしているなら、自分の言い方や反応の仕方を一つ変えてみる。

新村:人は相手から返ってくる反応によって次にとる行動を変えると本書で解説されています。相手にしてほしい行動には、「みかえり」となる反応を返す。それによって間接的にしてほしい行動を増やしてもらうということですね。

石井:そうです。どんな反応を返すかは自分で選べますから。相手にしてほしい行動を強化するようなアクションを返すのが大事です。自分のアクションに対して相手がどういう行動をとるか――現実がフィードバックをくれるので、それを見てもう一度、自分のアクションを変える。そうしたループを回すために、まずはワンアクションから始めていただければと思います。

リモートでチームの心理的安全性

新村:どれも重要なメッセージだと思いますが、本書の中で石井さんが特に伝えたかったのは、どのあたりですか。

石井:第2章「リーダーシップとしての心理的柔軟性」に書いた、心理的柔軟なリーダーシップをもとに良いチームをつくりましょう、というところでしょうか。

リーダーシップを発揮するのは、リーダーだけではありません。チームに所属するメンバーでも、誰であっても「チームを自分で変えていくぞ」という思いがあることが、いいチームをつくるために大事だと思っています。

新村:チームを自分で変えていくためには、石井さんは何が必要だと思いますか。

石井:まずは意味・意義です。このチームのビジョンや成し遂げたいこと、このプロダクトやプロジェクトが持つ大義を考えることでしょう。それが明確になると、ビジョンや目的を実現するために他のメンバーにいろいろアプローチしますよね。カメラを引いてその状況を見てみると、他のメンバーから「彼はリーダーシップを発揮している」と映る。

新村:新型コロナの影響でリモートワークにシフトした職場は多いと思います。チームを取り巻く環境も変わりました。リモートワークは、チームの心理的安全性にどのような影響を与えていますか。

石井:チームのばらつきが大きくなっています。きちんと心理的安全性をつくれているチームもあれば、上手く回らなくなってしまったチームもあり、ばらつきが大きくなっています。平均的に見ると、リモートに移行した直後は心理的安全性が下がって、リモートワークが半年、1年と延びるうちにやや回復していく傾向が見られます。

新村:リモート環境でも心理的安全性を維持できているチームもあるということですね。そこでは、実際にどんな工夫をするといいのでしょうか。

石井:とにかく反応を返すことですね。たとえばメンバーが企画書を上司に送ったとします。同じ場所にいると、「いま部長は忙しそうだ」とわかります。しかし、リモートでは様子がわかりません。上司から反応が3日間ないと、上司は忙しかっただけなのに「企画書のクオリティーが低かったのかな」と余計なことを考えて、心理的安全性が下がるのです。

これを防ぐには、とにかく反応すること。じっくり読む時間がなければ、電車の中で10秒使って「週末に読むよ」と一言返すだけでもいい。そうしたら部下は週末をさわやかな気持ちで過ごせます(笑)。行動に対してすぐ見返りがあるチームは、リモートでも心理的安全性が保たれやすいと思います。

新村:リモートワークでは、「反応をしない」という行動自体が1つのメッセージとして意味を持ってしまうのですね。今後もリモートの生活や働き方が続くと思いますが、これから特に何を意識すればいいでしょうか。

石井:コロナで大打撃を受けたとか、事業部ごと撤退せざるを得なくなったとか、これからも不都合な真実に直面する場面はあるでしょう。

そのときに「これは現実だ」と受け止められる心理的柔軟性を持つことが、まず大切です。そしてその現実を踏まえて自由に話ができる心理的安全性がつくることができれば、チームで不都合を乗り越えられるかもしれない。未来は今より不確実かもしれませんが、だからこそ心理的な柔軟性と安全性を育んで、組織・チームが力を合わせて荒波の中を進んでいただきたいですね。

『心理的安全性のつくりかた』
著者:石井 遼介 発売日 : 2020/9/1 価格:1,980円 発行元:日本能率協会マネジメントセンター

石井 遼介

株式会社ZENTech取締役/一般社団法人日本認知科学研究所理事/慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科研究員

東京大学工学部卒。シンガポール国立大学経営学修士(MBA)。神戸市出身。研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネジャー。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。

心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発すると共に、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。2017年より日本オリンピック委員会より委嘱され、オリンピック医・科学スタッフも務める。

新村 正樹

グロービス経営大学院 教員/グロービス・コーポレート・エデュケーション ディレクター

株式会社ジャパンエナジー(現ENEOS株式会社)にて法務、販売に従事した後、2000年グロービスに入社。

スクール部門、ファカルティ・コンテンツ部門を経て、現在はコーポレート・ソリューション部門のディレクターとして企業の人材育成、組織開発に携わるほか、人・組織、変革領域に関するコンテンツ開発、グロービス経営大学院の教員、企業研修の講師も務める。

上智大学法学部国際関係法学科卒業、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院EDP(Executive Development Program)修了

共著書に『新版グロービスMBAリーダーシップ』『グロービスMBAマネジメントブックⅡ』(以上ダイヤモンド社)、『「変革型人事」入門』(労務行政)がある。