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投稿日:2021年01月08日

投稿日:2021年01月08日

「新しい時代の『地域経済』の創り方〜デジタルが生み出す創造的な顧客体験と事業変革の実践方法とは〜」 特別セミナーレポート

杖村 修司
北國銀行 取締役頭取

2020年9月、グロービス経営大学院は、参加者約970名にも及ぶ大規模な特別セミナーをオンラインで開催した。本記事では、その様子を一部ご紹介したい。

スピーカーは、株式会社北國銀行 取締役頭取 杖村修司氏。今年6月、頭取に就任した杖村氏は、同行のデジタル化による事業構造改革を先頭に立って指揮してきた。

合従連衡の時代。企業変革に必要な三つの要素

北國銀行は、次世代の地域経済のプラットフォームを目指し、フィンテックが世の中で話題になる前から、テクノロジーを軸とした変革を成し遂げてきた。

「地方銀行が淘汰される時代でも、ビジネスモデルを変えることで生き残れる」と話す、杖村氏。改革には、必要とする三つの段階があるという。

「まずはIT投資、次にオペレーションとシステムの変容が挙げられます。当社はまず、最も着手したかったIT投資を行うために80億円に及ぶ物件費を削減し、余力を生み出しました。同時に『組織能力再構築プロジェクト』を立ち上げ、マネジメントの仕方や働き方、会議の方法、決済のあり方、さらには報告書や稟議書の作り方を見直しました。これは、マネジメントを変えるには、色々な形でオペレーションを変え、システムを変える必要があるためです。これらに取り組むことで組織能力も上がっていく。そういう順番で改革を進めました」

こうしたプロセスを経て、現場の意識、そしてお客様の意識が変わったことは大きな変化だったと、杖村氏は振り返る。

改革を貫き通せるリーダーに求められること

組織に変化をもたらすうえで、業績評価の刷新も大きな影響を与えたという。杖村氏は評価基準を、これまでの数値目標重視から顧客貢献重視へと抜本的に変えたのだ。

「お客様のニーズを拾い上げ、どういうプロセスでアプローチし、いかに結果を出したのか、そこに不正はなかったのか、をチェックする形にしました。これで業績目標を達成できなければトップマネジメントのせい、と責任の所在を明らかにし、社内から不平不満が出ないようにもしました。現在はここからさらに進化し、現場がKPIを選ぶ形に変わっています」

 これら一つひとつの改革を着実に遂げていくには、信念が必要だ。杖村氏は、『カスタマー・セントリック(顧客中心主義)であること』を題目に掲げ、邁進してきた。

「お客様の声をしっかり聞く姿勢を崩さなければ、環境が変わってお客様が変わっても、ビジネスの方向をいち早く調整することができます。お客様に近ければ近いほど変化への感度が上がり、企業として生き残れる確率があがります。結果として、お客様により良いサービスを提供できることは間違いありません。

今、世の中は曲がり角に来ています。投資家の尺度も収益重視からESGやSDGs重視に変わってきています。地方銀行を中心にこの方向が広がれば、ビジネスは変わっていくのではないか、と期待しています。ですから、カスタマー・セントリックは、柱のなかの柱。この考え方は、全ての事業会社に通じるものだと思っています」

この思いを貫き通してきた杖村氏が大切にしてきた心構えにここで触れておきたい。

・失敗してもくよくよと悩まず、次に活かそうと常に前を向く
・「これを実現させたらポジションが上がる」と考えない。「ダメなら退職もいとわない」くらいの思いで取り組む。
・結果を出すため、ルールの範囲内で本流以外のプロセスを使うことも模索する

「海外出張に行くたび、現地の人から『日本はたいしたことがない』『日本人は大丈夫なのか』と心配されました。しかし、令和の日本では企業にDXがどんどん起こり、『日本人と日本はここにあるぞ』という姿を世界に見せられると思っています。私ももう少し頑張りますので、皆さんもぜひ頑張ってください」

最後は参加者を鼓舞するメッセージで、締めくくった杖村氏。実践者ならではの経験値と独自の視点は、日々変革に取り組む参加者の励みとなり、目指すべき道標となったことだろう。

杖村 修司

北國銀行 取締役頭取

昭和60年3月 慶応義塾大学商学部卒業後、同年4月北國銀行入行
平成13年より同社経営企画部門において社内改革PJを数々進める
平成19年6月総合企画部長兼システム部長に就任し社内のDX体制の礎を築く
平成22年6月常務取締役、平成25年6月代表取締役専務を歴任し
令和2年6月より現職