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「TRAVEL Now」は無謀なビジネスモデルなのか?

2018年09月06日

  • マーケティング・戦略
  • 変革
  • 最先端
  • 先進事例
溝口 聖規 グロービス経営大学院 教員

少額資金事業「CASH」を運営する株式会社BANKの新サービス「TRAVEL Now」が話題です。「TRAVEL Now」はツアー予約のアプリ事業です。利用者は、同社が提供するアプリから10万円までの旅行商品を選択します。予約すると旅行は確定し、チケットが発券されホテルも予約されます。旅行代金は、予約から2か月後までに支払うことができます(利用者に支払い用ハガキが発送され、コンビニエンスストア決済にて期日までに支払います)。


要するに旅行商品の代金後払い取引であり、B to Bのビジネスにおける信用取引(掛売上)と同じで、この点だけ見れば特に新しいビジネスモデルではありません。会社間の信用取引においては通常、取引開始に当たり相手先の信用調査を行います。信用調査の結果、相手先の財務内容等により取引金額の規模、決済条件(与信期間、決済方法)などに関してどの程度の信用を与えられるか(与信)を判断します。


例えば、新規取引において前金を要求するのは与信の判断によるものです。しかし、「TRAVEL Now」は不特定多数の個人利用者に対して初期登録時には電話番号のみしか情報を要求しません。つまり、利用者の信用調査をほとんどしないまま2か月の支払い猶予(与信)を与えるのです。この点は通常のビジネス感覚からは驚きに値します。これでは代金の回収リスク(貸倒リスク)は高まります。


実は、同社では「TRAVEL Now」に先行するCASHビジネスの運営によりデフォルト(債権不履行)率が1/10程度であるとのデータを蓄積していました。「TRAVEL Now」の利用者に対する与信判断はこのデータに基づいたものと考えます。また、個別に利用者に対して信用調査をしない代わりに、同社は提供する旅行商品金額の上限を10万円としています。詳細な審査しないことで与信審査に係るコストはセーブしつつ、与信限度額を一律に設定して代金の回収リスクを限定している点にも納得がいきます。


また、以前「てるみくらぶの経営破たんは必然なのか?」で説明したように、旅行会社が利用者に前金を要求するのは、与信の問題以外に運転資本の問題があるためです。旅行会社は販売する旅行に係る航空券や宿泊施設の予約をそれ以前に手配する必要があり、これに係る予約金等の支払いが必要になります。したがって、提供する旅行商品が多くなるほど多額の運転資本が必要になります。利用者からの前金は運転資本の一部補填というわけです。「TRAVEL Now」では予約できる旅行は2か月先までに限定していますが、これは運転資本を抑制するための施策と考えます。


このようにみると、「TRAVEL Now」は単なる性善説をベースにした無謀なビジネスではなく、与信や運転資本に対するリスクを適切に評価、抑制しつつも、周到に準備をしてリスクを果敢に取るという、よく考えられたビジネスモデルに思えます。


なお、「TRAVEL Now」では旅行によって個人情報が必要な場合はアプリ内に追加の情報を登録するなど、利用者の情報が段々と蓄積されていきます。蓄積された利用者の情報の中には利用者の信用状況の把握に利用できるものも含まれるでしょう。インターネットを通じて得られる顧客情報は、今後のブロックチェーンやAIの技術進化によって信用調査の手法やコストだけでなくビジネスモデルにも変化をもたらすかもしれません。

溝口 聖規グロービス経営大学院 教員

京都大学経済学部経済学科卒業後、公認会計士試験2次試験に合格し、青山監査法人(当時)入所。主として監査部門において公開企業の法定監査をはじめ、株式公開(IPO)支援業務、業務基幹システム導入コンサルティング業務、内部統制構築支援業務(国内/外)等のコンサルティング業務に従事。みすず監査法人(中央青山監査法人(当時))、有限責任監査法人トーマツを経て、溝口公認会計士事務所を開設。現在は、管理会計(月次決算体制、原価計算制度等)、株式公開、内部統制、企業評価等に関するコンサルティング業務を中心に活動している。


(資格)

公認会計士(CPA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、公認内部監査人(CIA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA)

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