教員からのアドバイス(荒木博行)

荒木博行

教員 荒木博行からのアドバイス

教員 荒木博行からのアドバイス

荒木 博行Araki Hiroyuki

※プロフィールはページ末尾に記載

グロービス経営大学院にて副研究科長を務め、数多くの「ビジネス・リーダー」の「能力開発」やキャリアに向き合ってきた経験から、キャリアを真剣に考えるビジネスパーソンにとってグロービスのMBAがどう役立つかについて、話を聞いた。

なぜ今、キャリアについて考えることが重要なのでしょうか?

20代、30代、40代…。キャリアは永遠に考え続けていくもの。

我々がたまたま新卒で入社した会社がありますよね。「それってどれくらい考えて、どれくらいのことをわかった上で入ったんですか」というと、ほとんど何も社会のことを知らずに「縁」と「運」で入ったようなところがあると思います。それを否定しているわけではなく、そういうものなんだと思っています。だからその前提に立ったときに、実際に社会に出た上で、仕事について理解しながら、自分の特性や本当に自分がやりたいことについて考えていくのが健全だと思うのです。つまり学生時代に考えられるキャリアの範囲には限界があるため、20代に、30代に、そして40代に考えるタイミングがあって当たり前。つまり、キャリアとは永遠に考え続けていくものだと思っています。ご存じの通り、少子高齢化が進みもう下の世代に頼ることができなくなっている社会状況のなかで、「いつ定年ですか?」というのがわからなくなっている時代です。それこそ、生涯現役のようなキャリアの築き方は、これから現実味を帯びてくるのだと思います。将来について考え続け、必要なキャリアチェンジや「能力開発」を必要なタイミングでしていくことで、いつまでも楽しく自分らしくいることができるのではないでしょうか。

そうはいってもキャリアを考える「難しさ」もあると思います。どのように考えていけばいいのでしょうか?

「そもそも自分は何をやりたいのか?」を考える手間と時間を、意識的に作る。

重要だと理解できたとしても、日常的に考え続けることは難しいですよね。例えば月曜日の朝、オフィスに一歩足を踏み入れると私たちはどういう状態になるのか。あれやんなきゃ、これやんなきゃというように、To Doリストの山に囲まれるわけですよね。まさに、飛んできた球を打ち返し続ける「バッティングセンター状態」。そこには、冷静にキャリアを考えるという時間は全く無いのです。そうなっていくと、仕事をこなしていくこと自体が目的化してくるし、また器用に打ち返し続けていると自分の中に達成感のようなものを持ってしまいます。それはそれで大事なのですが、キャリアを考える難しさを乗り越えるためには「そもそも自分は何をやりたいのか?」を考える手間と時間を意識的に作る必要があります。To Doをこなすことと、自分は何をやりたいのかを考えることは両輪で、同時並行でバランス良く考えていくことが重要なのではないかと思います。自分のやりたいことだけを考えていると、やったこともないのに悶々と考え続ける夢想家のようになり、それも良い状態とは言えません。やりながら考える、考えながらやる。このバランスが重要なのではないかと思います。

これまでのお話も踏まえながら、キャリアを真剣に考えるビジネスパーソンにとって、グロービスのMBAはどう役立つのでしょうか?

前向きにキャリアを考えるための、時間や気付きが得られる場所。

教員 荒木博行からのアドバイス

グロービスMBAのプログラムには幅広いテーマの学びやイベントがあります。そして、全てに共通して「あなたがやりたいことは何ですか?」という問いを投げかけています。志という学びの領域もありますが、必ずしもそこに限った話ではありません。例えば私は、「クリティカル・シンキング」や「経営戦略」などの科目を担当していますが、単に科目を科目として教えているわけではありません。そこで聞くのは「こういうことを学んで、あなたは何をやりたいのですか?」ということです。それによって、どんな目的でどんな学びを得たいかが明確になり、学び方が変わるからです。

しかし、真正面から問われるとたいていの人は思考が停止します。それは先ほどの表現を使うと、ToDoリストをこなしてきた結果、心の外にカラのようなものができてしまっているのではないかと思います。自分がやりたいことというよりも、上がやれ、組織がやれというHave toやMustという軸でものを考えるようになり、ある種の割り切りをしているような状態です。そこで重要になるのは、あなたが本当にやりたいこと、力を発揮できることはなにかを考える時間だと思います。自分の力を120%発揮しようと思ったら、やっぱりやりたいことをやるしかないのです。ホースの水と一緒で、小さくした一つの穴に強い圧力をかけるから勢いよく飛ぶわけで、穴が大きい、穴がたくさん空いている状態だと絶対に勢いよく飛ばない。従って、かかわる仕事とやりたいことが交わる点を考え続ける営みが、非常に重要だと考えています。

グロービスという場には良くも悪くも青臭いところがあって、学生や教員から、「あなたがやりたいことは何か?」という問いをたくさん投げかけられるわけです。そうするとキャリアについて考えざるを得ない環境に身を置くことになり、カラが1枚とれ、2枚とれ、最終的に卒業まで2~3年経っていくと、自分の言葉で自分の志、やりたいことが語れるようになっていきます。これまでも、そのような学生をたくさん見送ってきました。キャリアを考えるためには、場所や時間などをトータルに含む「環境」が重要だと思います。環境のなかで特に重要な要素は人なんですよね。前向きなことを考えている人が前向きにキャリアを考えられる場の空気をつくり、「あなたってこういう人だよね」と突拍子もない言葉を投げてくれる人がキャリア上の重要な気付きを与えてくれたりします。「ストロング・タイズ(強い結びつき)よりも、ウィーク・タイズ(弱い結びつき)の方が幸運や気付きをもたらしてくれる」という理論は有名ですが、このウィーク・タイズは職場にいるとほとんど得られません。しがらみだらけなので(笑)。グロービスのラウンジを見に来てもらうとわかりますが、特にクラス前後の時間や土日に学生同士が集まり談笑しています。そこで何をしているかというと、予習・復習はもちろんですが、「●●をやりたいと思うんだけど、どう思う?」とか「●●の分野で面白い人いない?」などの気軽な会話が交わされます。そこには大企業の戦略実現を支えるミドルマネージャーもいれば、茨の道をくぐり抜けてきた起業家もいます。そのなかで、相手から「こう思う」というフィードバックや「こんな人を知っているけど、会ってみる?」「やってみたら?」という背中押しが得られます。グロービスには、チャレンジしようとしている人には必ず背中を押してあげる空気があり、これは校風だと思っています。前向きにキャリアを考えるための時間や気付きを得るという観点でも、グロービスのような場には価値があると思っています。

具体的にどのようにグロービスの場を活用し、キャリアを実現していけるのでしょうか?

刺激を受ける出来事、出会える人とその人がもたらすチャンス。偶然を引き起こすそれらの機会を活用し、可能性を広げる。

例えば、私のクラスを受けていた学生で、外資系企業から教師にキャリアチェンジした方がいます。グロービスでは入学時にその時点での自分の志を発表するのですが、その方はそのときに「外資系企業に長年勤めていて、日本の国際競争力の低下に危機感を持った。その問題を解決するために何ができるだろうと考え、同時に自分の能力を棚卸したところ、英語の教員になるのがいいのではないかと思い至った。」という話をされていました。グロービスの同学年の仲間にその志を語ったところ、同じように外資系企業から英語教員になった人を紹介してもらうことができ、その人の的確なアドバイスによって、志を立ててからたった1年、教員採用試験合格という結果を出せたそうです。教員採用試験1週間前に、グロービスが主催するビジネスカンファレンス「あすか会議」で、日本の教育界を改革しているリーダーから激励の言葉をもらい、勇気を持って試験を受けることができたともおっしゃっていました。これは一例に過ぎませんが、グロービスはとても多くのボールが転がっている場です。ボールとは「刺激を受ける出来事」「出会える人とその人がもたらすチャンス」などのことです。それを一つひとつ拾っていくと、ある瞬間に沸点を超えて化学反応が起きる。これは計画されたメカニズムではなく、偶然の積み重ねに過ぎませんが、その偶然を引き起こす機会(ボール)がものすごくたくさん転がっているのがグロービスです。その意味では、グロービスは国内最大数の入学者を迎え、1,000名を超える最大規模の学生が在籍していますが、それだけ偶然を引き起こす可能性が存在しているとも捉えられます。

まだ今はキャリアを悩んでいる、自分のキャリアと経営の関係性を見いだせないという方も少なくないのでは?

経営とは結局は、現場の一つひとつの意思決定の積み重ね。誰もがミクロな単位で必ず経営に参加している。

教員 荒木博行からのアドバイス

やりたいことが明確でその準備ができた人でないとグロービスの門を叩けないとお考えの方がもしいらっしゃったら、それは誤解です。学びながら自分と向き合い続け、最終的に、卒業するときに、やりたいことが明確になり、その準備ができている、という状態であればいいのだと思います。そもそも、経営学やMBAというのは、どこか得体の知れないものになってしまっている側面があります。「私は営業をやっていて、営業からキャリアチェンジすることも考えていない。だから経営やMBAは関係ない。」という話も聞きます。

しかし、クラスの中で何をやっているのか、私が何を伝えているかというと「経営とは、大きく捉えるとつかみどころがないものだけど、結局は我々の現場の一つひとつの意思決定の積み重ねである」ということです。例えば社員の採用をする際にAさん、Bさん、Cさんの誰にするか。ベンダーにアウトソースする場合にD社、E社、F社のどこにするか。こういう日々発生している現場単位の意思決定を、現場がどれだけ高い精度で積み重ねられるかということこそが、経営につながっていくという事実があります。つまり「私は経営に関係ありません」と思っていたとしても、ミクロな単位では必ず経営に参加をしているのです。そのような現場単位の意思決定を、さらに抽象度を上げて、経営全体の視野で見るとどういうことなんだろうというのが経営学で教えていることです。従って、経営に関係しない人はいません。昇進するなど社内でキャリアの階段を上がっていくことは、まさに経営に対する関与を高めていくことなので、より一層、自分の仕事が経営に与えるインパクトを強めていきます。皆さんも経営を捉え直し、日々の実務に役立てていただければ嬉しいです。

どのような方にどのような目的で経営を学んで欲しいとお考えでしょうか?

いい仕事をしたい。それだけでもう、学ぶ動機は十分。

先ほども申し上げた通り、極端な話、「経営に携わりたい」と思っていなくても「いい仕事をしたい」と思っているだけで、もう十分な学ぶ動機だと思います。ご存知の方も多いかと思いますが、レンガ職人の寓話があります。ある職人はただ単に目の前のレンガを積む仕事をしている。ある職人は人々が集い、安らぐための教会を作るために目の前のレンガを積んでいる。いい仕事をしようと思ったら、そのレンガが何をどういう目的で使われるものなのかを知らないとできません。そうだとしたら同様に、自分の働く会社が、どういう目的で何を実現していこうと考えているのかを知りたいですよね。自分の言葉で語れるようになりたいですよね。だから、経営というキーワードはさておき、とにかく自分の仕事を良くしたい、よりいい仕事をしたいという素直な気持ちがある方は、経営を学ぶことに十分な意味があると思います。

最後に教員の立場から、どのようなキャリアを皆さんに歩んで欲しいと思いますか?

勝負のタイミングで結果を出すために、下積みの練習を積み重ねる。

後悔しない生き方をするために、いつ訪れるかわからない勝負のタイミングで、実力を発揮できるようになって欲しいと思います。勝負のタイミングは自分でコントロールできないものです。皆さんも、あの時が天下分け目の勝負だったのだと感じた経験があると思います。そういうときほど、正常に自分の頭を使って意思決定できていないことが多くあります。しがらみに捉われて「うん」と言ってしまうなど、その場の空気に流される場面も少なくありません。グロービスのMBAで学んでいることは、ある意味、そういう身近な意思決定のタイミングで、合理的かつ自分が本当に求める方向で意思決定をする力です。その一瞬のタイミングで結果を出すためには、どれだけ真剣に徹底して下積みの練習を重ねているかでしかありません。その勝負の一瞬のために、我々は練習を積み重ねているといっても過言ではありません。勝負のタイミングは自分でコントロールができないからこそ、しっかりと練習をしておくことが重要ではないかと思っています。キャリアにも節目があり、その節目が勝負のタイミングになります。例えば、節目に結果を出したから、その後に海外勤務に抜擢されるチャンスを手にすることができ、また次の節目に繋がるチャンスを手にしていくわけです。チャンスを掴んでいる人たちは単にラッキーなのではなく、事前に練習し、その時その時でパフォーマンスを発揮してきた人です。その結果が評価され、納得のいくキャリアを今歩めていけるわけです。戦略的にキャリアを考えるということも大事な話ですが、忘れてはいけないのは、日々の細々とした意思決定のときに自分の実力を発揮し確実に成果を出していくことです。この2つの要素が組み合わさって初めて、理想的なキャリアになるのではないでしょうか。

荒木博行プロフィール

慶應義塾大学法学部卒業、スイスIMD BOTコース修了。住友商事株式会社を経て、グロービスに加わり、法人向けコンサルティング業務に従事。現在は、グロービス経営大学院にてオンラインMBAのマネジメントを行うとともに、グロービス経営大学院及び企業研修における戦略系、および思考系科目の教鞭を執る。著書に「ストーリーで学ぶ戦略思考入門――仕事にすぐ活かせる10のフレームワーク」、「グロービス流ビジネス基礎力10」、「グロービス流ビジネス勉強力」、「グロービス流リーダー基礎力10」がある。オンライン媒体グロービス知見録にて、「できる人の思考術」連載中。

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